第6話 少し壊れていた好実

 つい笑ってしまう。


 下の連中がおとなしくなったので、とりあえず下へ降りる。

 いや降ろして貰う。


「落ち着いたか?」

 偉そうな立派すぎる体格の奴は、こちらを睨みながら、大きく肩で息をしている。


「ふざけるな。私を誰だと思っている?」

「いや知らない。すまない」

 さっき、王と言われたのが気になり、ため口になってしまう。

 葛藤が。王と言うからには、謙ってはいけないよな。尊大にもならないように、まあ、ため口だろうか?


「知らぬだと。ふざけるな。笑う子も泣き出し、通り過ぎた後はペンペン草さえも生えぬと知られ恐れられる。我が、ミッドグランド王国。城郭都市コーガネーを治めるウーベル=ナーレ辺境伯私設兵団。プルゲトリウム兵団、別の名を煉獄の盗賊団。いや違う、煉獄の兵団だ」


 いや今、自ら盗賊団と言ったよね。


「団歌にもきちんと歌われておる。『今君は、何か言ったのか? でも大丈夫、君の言葉に意味はない。君が今ここに居るのが重要なのさ。これで君の村を滅ぼせる。君の国を滅ぼせる。すべての物は俺達の物になる。ほらごらん、残りは屍のみ。それ位は残してあげよう。それが俺達の情けだ、見せしめだ。恐れ讃えよ。我ら煉獄の盗賊団』とな」


 やっぱり、盗賊団と言ったし。

 すると、抱えていた好実がもぞもぞと動いた。

 そして、振り返りもせず、右手を振るう。


「あっ」

「あ゛っ」

 散々うだうだ言って、名前さえ名乗らなかった彼は、その人生を終わらせた。

 彼の首がコロコロと転がっていく。


「本当にやかましいわね」

 好実から、そんな声が聞こえる。

 そして目が合う。眉間にしわの寄った不機嫌そうな顔が、パッと明るくなる。


「あっ。山川くん。えっと、どうして? 美葉は?」

 どうして今更、美葉の事など?


「美葉は、こっちに来ていない」

「そうなんだ。あっ、あのね。私、夏休みに一緒にプールに行ったでしょ。その時から気になって、美葉にも相談して、山川くんの事、お勉強しちゃった。ごめんね。それであの…… 好きです」

 そう言って、俺の胸に顔を埋める。


「ああ。ありがとう」

「あっ、それでね、美葉に教えて貰った、山川くんの趣味。縛ったりされるのはちょっとまだ無理だけど、徐々に覚えるから、それで良い?」

 ちょっと不安そうに、うるうるしながら聞いてくる。


「大丈夫。そんな趣味はない。美葉に揶揄われただけだよ」

「そうなんだ。よかった。でも本当に良いの? 少しくらいなら大丈夫だよ」

「あーありがとう。その気になったら、お願いしようかな。今はゆっくり休んで」

 軽く、キスをして、頭をなでる。

 すると、穏やかな表情になり、スイッチが切れるように、また寝始める。


 うーん。この症状。この数日の碧がした特訓。キツかったのだろうなぁ。

 子どもの頃から、アウトドアに連れ出されて、当然、魚とかだけれど、命を奪った経験があった俺でも辛かったもの。

 少しケアをしないといけない。今、人を殺したのも、きっと覚えてはいないだろう。いや覚えていないと良いなぁ。兵団の何とかさん。


 問題は、どう片をつけるかだが…… どうしよう? 勝手に乗り込み極悪人ぽかったけれど殺してしまった。

 好実をお姫様抱っこをしたまま立ち上がり、見回してちょっと、良さそうな鎧を着ている奴を起こす。


「おい。聞きたいことがある」

「ううあっ。うん? 誰だお前?」

「先ほど空から、話を聞いていたものだ」

 そう言うと、いきなり剣を抜こうとする。


「ちょっと待て、話をしたいだけだ。今攻めてきているのはどこだ?」

「今攻めてきている? ……あっ。そうだ。南側のメリディアム国。襲ってきたのは、隣国のマリチオニス辺境伯が抱える兵士達だ。シェレラートス兵団長の指示で村を一つ襲ったから、その意趣返しで奴らが」


「シェレラートス兵団長? そこに転がっている奴か?」

「転がっている? あっ本当だ。やったぁ」

 そう叫んだ後。口を押さえる。


「あんた、名前は?」

「副兵団長レオン=グラビスだ」

「じゃあ、此処の指示は今から君が取れ」

「おまえ。いやあなたは? 王と言ったが、一体どこの?」

 聞かれて首をひねる。


「国の名前何?」

 振り返って聞くと、碧が一歩出てくる。

「まだ、決めていませんよね」

 俺が悪いのかよ。

「あそこ遺跡だし、昔の名前は?」

「彼、プローペ=ディウム。昔の王は、リギュウムディと名乗っていました」

「じゃあ、それで良いや。ええと、リギュウムディだそうだ」


 そう名乗った瞬間、そのレオンさんは固まる。

「神々の国。リギュウムディ」

「神々の国?」

「そうだ。子どもでも、その名は知っている。そこへ行けば、願いが叶うと言われている。理想郷。千年王国。だが場所は誰も知らないが、望めば誰もが行くことができると、伝説がある。そのために人々は拝むのだ」


 ああっ? ああそうか。拝むだけじゃ駄目だな。

 あの魔力、結構持って行かれたけれど、修行前だし、誰でも行けるのか?


「まあいい。そこの王だ。現在復旧中だがな」

「復旧中? そうだ、ならば奇跡を。グウーベル=ナーレ辺境伯を助けてください。今病で。そのおかげで兵団長が、好き勝手に狼藉を行っていたのです」

「じゃあその前に、そこまで来た奴らと話し合いをして、それと何か、食い物をくれ」

「はっ? はい」

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