第二章 名前も知らないところ

第3話 此処はどこ?

 するとだ、光ったのだよ。石板が。


「なっ、なに?」

 思わず、二人抱き合う。

 月明かりの差し込む、うす暗い教会の中。


 体に感じる浮遊感。

「ぐっ。手を離すなよ」

「うん」

 などと、緊迫感を出した次の瞬間。


 もう、次の瞬間には、足が地面に付いた。


 そして、まぶしさに眩みながら、周りを見回す。

 世界は一瞬で明るくなり、今立っている場所の建物は崩壊していた。

「えっ、えっ、なに?」

 あわてる彼女。


「此処は、どこだ?」

 あわてて石板に魔力を流してみたが、半分に欠けたこちらの石板は、反応しなかった。

 そして俺達は、いきなり昼間? になった廃墟で、周囲の探索を始めた。


 苔むした、石造りの廃墟。

「どこかに、空を飛べる石とか無いか?」

「あーそれって素敵ね。有名な呪文を唱えてみる?」

 俺の言った軽口で、少し気が楽になったのか微笑む彼女。


「何か反応すると怖いから、やめてね」

 もう一度、冗談を重ねる。


「そうね。床が抜けると怖いものね」

 そう言って彼女は、俺に肩を抱かれた状態で、自身の体を抱きしめる。


 壊れた教会。

 周りに建っている石組みの四角い枠。


「これは全部、もと家かな?」

「多分、そうみたいね」

 周囲を警戒をしながら、見回す。

 山を切り開いたのだろう。奥側には林。さらに遠くには冠雪の山脈。


「異世界定番のモンスターが居るかもしれない。気を付けよう」

「うっうん」

 二人で、壁に沿って歩いて行く。


 意外と街の廃墟は広く、かなり歩いても端に付かない。

 それどころか、真ん中の広場っぽい所に到着をした。

「ここでやっと、街の中心みたいだな」

 ここにも、細長いの石板? いやどちらかというと石柱が立っていて、古いお墓に生えるようなシミのような苔で色が所々変わっている。


 やめようかと思いながらも、魔力を与えてみる。


「うーん駄目か。もうちょっとだけ」

 さらに、加えていく。

 するとだ、光ったと思ったら、苔がはじけて表面がいきなり綺麗になった。


「あれ? どうしてだ?」

 かがんで、まじまじと見ていると、目の前に薄い碧色のドレスが現れた。

 うん。薄いドレス。向こうが透けている。


 透けた内側には、透けたあんよが二本。

 そしてその付け根は、何も穿いていない。

 さらに視線を上がると、ぷっくりお山、先にちょんととんがりの付いた。


 そして、こちらを涼やかに見つめるおめめと、微笑みをたたえたお顔。

 うん。お姉様。思わず跪き、拝みたくなる。完璧なお方。女神と言っても信じられる。


「ご満足? おまえ? あなたから力を強引に突っ込まれ、放出を身に受け入れ顕現、我が身はお前の考え、エロいからだ、あなた様。ドストライク? 」

 あらっ? ちょっと変だけれど普通にしゃべった。右手の親指を立て、ウインクをしながら、そんな爆弾を、さらっと言ってくれる。とんでもない奴だが。

 後ろをちらっと見て、現実の爆弾はどうかと様子を見る。


 あら? 怒っていない。

 以外と、ぽーっとした顔で見ている。

 そして彼女は、口を開く。

「おねえさま。お名前は?」

 ちょっと、すがりつくような目で、彼女は聞く。


「まだ。空白。私は、水の精霊。水を司るもの。名付けの援交を行えば、おまい達に力を与えることも…… できるかも、事もできる? できるますです」



 そう言われて、のために名前を考える。

 今は透けているけれど、名前をつければ実体化するのでは?


 アクア、ウンディーネ、水。碧い。碧? 

「碧(あおい)で良いかな?」

「はい、ありがとうでござい。それでは、契り喜んで」

 お礼は来たが、ついでに体内から、ごっそり何かを持って行かれた。

 思わず、膝を突く。

 うげっ。だるい。めまいと吐き気が。



「あらあら、器はすんごいのに、少し鍛え方が、えっと足らぬごみ? 手っ取り早く、少し、他の持つ、命を勝手に強奪、力を得るでございます」

 そう言って、優しく? 諭してくれる。

 内容は、何でも良いから殺して命を奪えだが。碧が言うなら、そうなのだろう。


 いい加減ぽーっとなっていた好実も、再起動したようだ。


「望、くん。大丈夫?」

 その問いに俺が答える前に、碧が割り込む。


「大丈夫? 主様の魔力が、思ったよりゴミだけ? でござい。少しすれば殺れる。でしょう。早く、他の命を強姦しやがれでございます」

「あのー、言葉が変ですよ」

 さすがに、好実が突っ込む。


「左様…… ですか?」

 そう言って、右の掌をほっぺに当て、悩む姿も美しい。

 だが。


「さあもう、よい。でしょう。逝くよ。です」

「えっ」

「ささっ。早くう」

 そう言って、歩き始める碧の後を、何故か体が引きずられて、勝手に付いていく。

 三〇分ちょっとほど急ぎ足で移動して、いきなり止まった。


 思わず、目の前で止まった碧のお尻を突き抜け、四つん這い。

 俺の背中から碧が生えている形になってしまう。そんな俺に、彼女は躊躇無く言葉を告げる。

「命いました、あれを倒せ。です」


 胸を張り、碧の指さす方向。

 目の錯覚でなければ、大きさ六メートルから七メートルもある。

 双頭のワンコ。


「あれ? あれは、さすがにむりじゃ?」

「何を言ってらっしゃるでございます。昇天いくのです。さあ。ぶちゅっと」

 ぶちゅっと?? 相変わらず、体が、勝手に前に進む。四つん這いなのに、手足が忙しい。何とか立つ。


 だが、目が合う。わっ、わんこがぁこっちを見たぁ。

「ほっほら、左右とも長いベロが、口元のよだれを舐めているし」


 あー口が開いて近寄ってくる。左右で食われると、キット体がチギレルヨ。

 思わず、口のアップを見て、体がこわばる。


 やられる。そう思った瞬間。自分の体から碧い手が突き出てくる。

「主のへたれ。ぼーっとしていると逆に喰われますです。こうして、手を前に出す。それを目標をに向けて、水の槍を創りどーん。ほら簡単」

 体の自由が奪われ、俺が手を突きだした方向。

 ワンコの、首の付け根に、大きな穴が開いていた。


 そして、周囲から何かが流れ込んでくる。

「ぐっ。今度は、逆に何かが入り込んで。ぐわあ」

 だが、そんな主人の苦しみなど、碧には関係ないらしい。


「次を見つけました。このまま参ります」

 俺は苦しんでいるのに、動きが止まらない。

 背中から碧が体に入り込み、俺の体を操る。


「ねえ、望。まってぇ」

 二人羽織か、駅弁売りか。

 空中を、滑るように移動していく望くん。

 背中に引っ付いた、碧さんだけど、寄生しているようにしか見えない。

 何かを叫びながら、ジタバタしている望くんが離れていく。


 必死で追いかけて。けれど疲れて、足がとうとう止まってしまった。

「望くーん」

 思わず叫ぶ。

 だけどその答えの代わりに、背後から、なぜか碧さんの声が聞こえる。


「こちらも、お粗末。さあ、鍛えましょう。命を喰らい、この地に絶倫を」

「それって、なんだか、いやあぁぁ」

 その瞬間、体が浮き。

 凄いスピードで、どこかに連れて行かれる。


 地獄の始まり。

「ふふっ。たのしいですね」

 そんな言葉が、耳のそばから……。

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