第4話 四精霊復活

 ええ、それからどのくらい。モンスターを手に掛けたのか?


「「もう、いやだぁ」」

 その時、別の場所で叫んだ好実とハモる。


「情けない。こんな数日のことで」

 力が増え、話す時間が長いと、碧いの言葉がすこしましになってきた。


 そう、ほんの数日のこと。寝る事もできず、飲まず食わずで三日。いや水は貰った。

 喉が渇いたと言ったら、口移しで貰ったけど、移動中に背後から首が伸びてきた。

 あれは怖かった。

「さあっ。次はあれでございます」

 疲れ切った体に鞭うち、何とか目を開けると、一つ目の身長五メートル程度の巨人が立っていた。


 無言で手を上げ、振り下ろす。

 水の膜が上から下へと広がる。

 それに触った巨人は、真っ二つになり倒れる。


「ふむ。こんなものでしょうか」

「水は、飲み放題だけれど、いい加減何か食べたい」

「では、あそこに力のあるものがいます」

 そう言って碧が指さす方向には、標高何千メートルか不明だが、絶対領域?? じゃない、森林限界がかなり下にある山が見えている。

 むろん山頂には、冠雪が見える。

 あそこに飛んでいるのは、ワイバーンとかかな? 

 ここから見ても、随分大きそう。


「いやあ、あんな大物より、小動物が良い。兎とか」

「兎とは?」

「こう、耳がこんな感じに生えていて」

 自分の頭の上に、掌をぴょこんと立て、まねをする。


「ふむ。少しお待ちください」

 そう言って、少し悩んでいるようだ。


「見つけました。行きます」

 そう言うと、凄いスピードで走り、少し低い山を越えながら、結局襲いかかってきたワイバーンを三匹倒し、砂漠で直径で二メートルを超えるワームを十数匹倒し、岩のようなサソリのお化けも十匹ほど倒し、ゴーレムも居たようだが瞬殺。

 やがて、砂漠が岩肌になってきた頃、山間に、でかい十五メートルはありそうなトカゲがいた。

 頭に、ぐにょりとうねった角が二本。確かに生えている。


「違う。これは違うぞ。これは、兎じゃない。詳しくないが、ディアボロスとか言う奴のようだ。背中に羽があり、角。とても邪悪な雰囲気が、体中から滲んできている」

 俺がそう語っていると、碧に突っ込まれる。


「違うのは分かりましたから、さっさと倒してください」

 近寄ると、大きさのせいで遠近感が狂っていたようだ。


 あまり近付いたつもりはなかったが、もう距離があまりない。右横から、しっぽが音速を超えた速度でやってくる。

 空気の破裂するような音がして、水のシールドを纏った俺の右手に、しっぽが止められる。


「ふん」

 ニードル系を、三本撃ち出す。


 首と、前足の付け根、後ろの足の付け根それぞれに穴が開く。

 それだけで、奴は倒れる。体の側面を見せたのが間違いだったな。

「はあ。何とか倒せた」

 意外と簡単だったので、少し脱力。

 わずか三日で、チートになってしまった。殲滅に次ぐ殲滅。この辺りの大型モンスターはあらかた。倒したのではないだろうか?


「はっ、主。火の神殿が、見つかりました。行きましょう」

 そう言った瞬間、もう目的に向けて動き出す。


「えっなっ」

 躊躇無く、凄いスピードで、移動を始める。

 やって来たのは、又廃墟。


 街の中心に石柱が立っている。

「ささっ、魔力をこれに」

 にこやかに勧められる。


「いや、そんな事より、好実。好実は無事か?」

 そう碧に聞くと、背後から声が聞こえた。


「あっうん。望くん。わたし絶倫になれたよぉ」

「はあっ? おい」

 女子高生の言う言葉ではないと思うが、吹き飛んだような髪の毛、こけた頬、くぼんだ目。彼女はそう言って微笑み、ぱたっと倒れてしまった。


 駆けより、抱き起こそうとするが、体が引っ張られる。

「そんな事より、魔力です。一気にさあ。一気に突っ込みどばっと放出。逝かせてあげてください」

 若干まだ言葉のおかしい碧、俺の意見は通らないから、手をついて、魔力を流す。

 又わずかに光り、表面から苔がなくなった。

 さらにつぎ込む。


 すると、でて来たのは、うす赤のドレスを着た精霊。

「うふ。主様お名前をくださいな。水がそこにいるというのなら、そういう事でしょう」


 水よりも、少し情熱的な雰囲気。

「うーん。火だし、茜(あかね)だな」

「ありがとうございます。きっと、力になれます」


「先に封印を施して」

 言葉を重ねるように、茜に碧が何かを言う。


「でもそれをすると、モンスターが寄ってこなくなるわよ。主ってまだへタレなんでしょう?」

「すこしは命を喰らい鍛えたから、少しは強くなったと思う」

「じゃあ、先に張って、復興ね。あっ、その前に、地と風を起こさなきゃ」

「そうね」


 精霊同士がうだうだ言っているその間に、好実に浄化をかけて、呼吸と心臓の鼓動を確認する。

 好実の胸に手を当てた後、手首で脈を取ればよかったと気がつく。

 でもその感触は、何故か安心感をくれる。鼓動と体温。息もしてる。うむうむ。


 あぐらを組んで座り、膝の中に好実を入れる。

 左手を背中に当て、包み込み、何とか休ませようとする。


 当然、そんな俺に無慈悲な声。

「ほら、ご主人様行くよ」

「ちょっと待て、いい加減にしろ。人間だから死んでしまう。何かを食わせろ」

 そう言うと、茜が驚く。


「えっ。水飲ませていないの?」

「飲ませましたよ」

「じゃあ大丈夫ね。行くよ」

 何がじゃあで、何が大丈夫なんだ? そんな疑問も無視をされ、抱っこをした好実ごと空を飛ぶ。

「じゃあ、大丈夫って何? あの水何か特殊なのか?」

 問いかけに返事はない。


 精霊の聖水? そんな事を考えながら運ばれる。

 これはこれで楽だし。


 しばらく飛んで、又遺跡。

 石柱に、魔力を流し、地の精霊復活。

 名前は、伽羅(きゃら)。伽羅色から取った。


 そして、移動。

 次は風。

 さて困った。風は色がない。

 本人は色がないけれど、周りによって変わるから彩(あや)にした。


 どどんと、精霊勢揃い。

 今は、各遺跡の中心辺り。そこに、少し立派な石柱が有り。それを取り囲み、精霊四人が踊っている。

 いや失礼、魔力を流し、何かをしているらしい。


 石柱の汚れが取れ、輝き始める。


「「「「できたぁ」」」」

 おれたち、そっちのけで精霊さん達大喜び。


「さて、そろそろ話をしてもらおうか?」

 何とか威厳を保とうと、かっこをつけて、好実を抱っこしたまま精霊達に聞く。


「あれ? 食べる物は良いの?」

 茜が意地悪そうに聞いてくる。


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