幕間2 とある室内にて

 暗い室内の中、設置された大きなディスプレイの前に二人の男が立っている。ディスプレイの光が二人の男を怪しく照らす。一人の男は短く刈り込まれた栗色の短髪で軍服を着こみ、右の頬には醜い傷跡があった。


 もう一人の男は腰まで届く長い銀髪を後ろでくくり、白衣を着て研究者然としたいでたちで手元のタブレットを操作していた。


「……それで? 計画の進捗具合はどうだ?」


 傷の男が口を開く。銀髪の男がその声に合わせてタブレットを操作するとディスプレイに様々な画像や数字が並ぶ。


「そうだね、全体の70%は完了しているよ。兵士たちの改良は進んでいるし、軍部の連中の根回しも完璧。誰もこの莫大ばくだいなリソースの流れには気づいてはいない。そして肝心のゲイトの完成は目前だ。しかし……」


「開くためのカギがかけている、か……」


 傷の男が表示された画像を見ながらぽつりとつぶやいた。男の目に建造中の巨大な銀色の輪ゲイトが映る。これが開くときすべてが始まる、待ち望んだ力が手に入るのだ―――。


「カギのほうはどうだ?」


「……そちらのほうはあまりよくない。クォンタム因子の定着率の低さはは相変わらずといったところだよ。定着したとしても長期の生存は見込めないだろう」


「長期の生存はどうでもいい。所詮は使い捨てだ、ここぞというときに使えればそれでいい」


「……君も変わったね、以前の君なら―――」


「昔話はやめろ。私は信念のために変わったのだ、ついてこれないというのなら切り捨てるぞ」


 傷の男が冷たく言い放ち、銀髪の男をにらみつける。


「そんなつもりで言ったんじゃないよ! 悪かった、報告を続けるよ」


 銀髪の男が慌てて謝ると傷の男はディスプレイに目を戻した。


「それでいい、実験体はどうだ?」


「ナンバー7から10はクォンタム因子いんしが定着せずに死亡、11から13は定着するも能力は不安定だ。実用レベルとは程遠いね」


「ナンバー14はどうだ?かなり期待できると聞いたが?」


「確かにナンバー14は今のところ最高の因子定着率と高い身体能力も備えている。若干の精神面での不安定さをのぞけば実用レベルに達しているだろうね、ここまでの性能の高さはおそらく新しいクローンテンプレートから選ばれた個体を使用したからで、遺伝子操作の手法も従来の形式から一新したものを―――」


「もういい、それ以上は聞く必要はない」


 興奮した口ぶりでまくしたてる銀髪の男を制すると傷の男はディスプレイを離れ、部屋の窓際に立つとスイッチを操作し窓のシャッターを開放した。


「……いよいよだ。ここまで長い道のりだった」


 傷の男が窓の外を眺めながらつぶやく。窓の外には広大な宇宙が広がりそこには数百隻ものふねが陣形を組んで並んでいた。


「君は本当にすごい男だ。たった一人でこの艦隊を作り上げたんだから」


「しかしこの艦隊をもってしてもカギがなければただの寄せ集めだ……、例の少女の居所がつかめない以上計画がとんする可能性がある」


 大きく傷の男がため息をつく。その息で窓に白い跡が広がる。


「その話なら一つ報告することがある」


「なんだ?」 


「実は王国には古いツテがあってね、それを使って彼女の行方を追跡したんだ。もちろん君も知っての通りそのルートでは一度見失ってしまったんだけどここで昔なじみの情報屋からタレコミがあって―――」


「いい加減にしろ、要点はなんだ」


 またしても早口になる銀髪の男を手で制しイラつく心を落ち着けながら傷の男がたずねる。こいつは昔から口がよく回る男だ。


「あぁ……、ごめん、つい。要点をまとめると……彼女を見つけた。正確には彼女の痕跡だけど」


「なに?」


「どうやら身分を偽って客船にもぐりこんでいたらしい。船の名前は『暁の女神ドーン・オブ・ヴィーナス』、惑星コンチネンタルに向かう途中に宇宙海賊に襲われたらしい」


「それで彼女は?どうなった?」


「船は惑星警備隊に助けられて無事にコンチネンタルについたらしい。そこからは……」


「そこからは現地に向かわねばならないか」


 傷の男が窓際から離れ部屋に置かれたデスクに向かう。


「君が直接?部隊を動かせばいいんじゃないのかい?」


「いや、彼女の確保は最優先事項だ。私が直接しなければ。そろそろデスクワークにも飽きてきたころだしな」


 傷の男がデスクに置かれた上着を着るとニヤリと笑った。こうなると何を言っても男は聞かないだろうと悟った銀髪の男がため息をついた。


「やれやれ……なら君の代わりは僕が務めるよ。行ってくるといいさ。幸運を祈ってるよ」


 銀髪の男の言葉を背中で聞きながら傷の男が部屋を出て行く。男が出て行くとき、誰にも聞こえないほどの声量で男がつぶやいた。


「幸運などとっくに尽きているさ。当の昔にな」















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