◇32 俺もやっぱりちゃんとした男だったらしい


 あれからすぐに俺は宿に戻った。というか、逃げた。聖者っていう存在が神殿の奴らにとってどれくらいの影響力を持っているのか知らないけど、ああ言っておいたからきっとちゃんと孤児の子供達を治療して身元確認して元の場所に戻れるようになるだろう。うん、よかったよかった。


 という事で俺は腹空き空きなのでさっさと宿に戻って飯食ってこよう。バリスとトロワとアグスティンには頑張ってもらったから、お礼もしないとな。


 と、思っていたのに。



「おにーさんもここの宿? 奇遇ね。どう? 一緒に飲まない?」


「えぇと……」



 客に絡まれてしまった。超絶美人のボンキュッボンのピンクヘアーお姉さんに。いや、下心とかないからね。トロワにぶん殴られそうだけど決してそういうやつじゃないからね。



「ダメ?」



 やべぇ、上目遣い。てか、顔ちっちゃいなこの人。



「おにーさんと飲みたいな。一緒の宿に泊まってるんだからお酒は行っても大丈夫でしょ? だから、どう?」


「……はい」


「やったぁ!」



 負けた。マジで負けた。


 けど、俺は気付かなかった。めちゃくちゃ密着してきて腕にむぎゅっと当たってるやつに意識が全部いってて気づかなかった。




 ______________


 【魔法無効化】自動発動中


 ______________





 そんな表示が出ていたことに。


 まぁ、全面的に俺が悪いんだけどさ。





 さ、どうぞ。そう言われて彼女の泊まる部屋に招かれた。お酒は好きで部屋に一杯持ち込んでるんだと言っていて。てか、俺飲んじゃっていいのかな。一応16の俺は成人はしてるみたいで酒も飲んでOKみたいだけど。


 中も俺の泊まってる部屋の内装と同じ。けど何となく荷物が多い気もしなくもない。あ、俺が少なすぎるのか。


 さ、ここに座って。そう言われてローテーブルの隣にあるソファーに座った。今更ながらに、女性の泊まる部屋に入ってもよかったのかと後悔はしてる。でもあれを断れるかと思えばちょっと無理だな。俺もちゃんと男だったという事か。トロワ、ごめん。



「実はラポワ酒をこの前手に入れてね、ちょっと一人で飲むのにはもったいないなって思っていたの。おにーさんと一緒に飲めて良かったわ。イケメンなおにーさんの顔を肴にしたらもっと美味しくなりそうじゃない?」


「……俺、あまり酒詳しくないですけど」


「じゃあ私が教えてあげるわ」



 俺酒飲んだことないから酔っぱらっちゃったらどうしよう。絡み酒とか、やばいやつだったらどうしよう。めちゃくちゃ恐ろしいんだけど。


 じゃあ、アルコール分解とかって魔法で出来ないかな。



「はいどうぞ」


「あ、ありがとうございます」



 と、渡してくれた高級そうなワイングラスみたいなコップ。これ俺使っちゃっていいのか?


 そして、赤黒いラポワ酒と呼ばれるものを注いでくれた。




 ______________


 名前:ラポワ酒

 種類:酒

 ランク:A

 お酒の名産地ラボワ地方で作られた葡萄酒ぶどうしゅ

 アルコール度度数54度。


 ______________





 おいおいアルコール度数のその数値なんだよ。ビールの何十倍だよそれ。これを飲めってか、俺に。飲んだことのない俺に。


 やっぱりアルコール分解の魔法、いや、治癒魔法でいけるか? ちょっとやってみるか。



「どう? おいし?」


「……葡萄酒?」


「そ、葡萄酒。葡萄ジュースみたいでしょ? でもそれに騙されちゃいけないよ、それで飲みすぎて酔っぱらっちゃう人が多いんだって」


「あ、はは……」



 試しに【治癒魔法】をかけてみた。うん、あんま変わらない? えどうなってんだか分らん。まぁかけておくに越したことはないな。


 まさかこんな所で異世界の酒を飲まされることになるとは。思いもしなかった。


 でも、待てよ。そういえば……無限倉庫の【No.8 貰いもの】ってところに【最高級SSSランクの葡萄酒】ってのがあったな。恐ろしいものと一緒に入ってた気がした。じいちゃんが誰から貰ったのか知らないけど、きっと永久保存だな。



「あ、私はネネティスね。実は隣のテューラシアって所から来てね、今は旅人として各地を回ってるの。君、獣人だよね? どこから来たの?」


「あ、俺はルアンです。隣のティーファス王国から来ました」


「へぇ、あそこ獣人の国だったわよね。そこ出身?」


「あ、いえ」


「そっか。あそこ、最近色々と騒がしいみたいね。まぁ、パラウェス帝国の不穏な空気でどこもピリピリしてるからしょうがないんだろうけれど」



 まぁ、皆そう言うよな。一体今あの国はどうなってることやら。まぁ考えたくはないけどさ。絶対に関わりたくないし。


 さ、もう一杯。とどんどん俺のグラスに注いでくるお姉さん。お姉さんも飲んで、と言ってはいるけど俺に飲んでほしいみたいで飲まされる。はぁ、こりゃやばいな。



「おにーさんもっと飲んで♡」


「え”っ」


「おにーさんのためにこのお酒用意したんだよ? だからほら飲んで♡」



 と、横に密着して座ってきた。おいおいちょっと待ってくれ! 色々と待ってくれ!


 まぁでも、治癒魔法をかけているからか酔ってる感覚はしない。熱くなったりしないし。というか、俺酒飲んだことないからどんな感じになるのかは分からないけど。



「おにーさん、彼女とかいる?」


「え」


「いなかったら私立候補しちゃおっかな~♡ おにーさんかっこいいもん♡」



 待て待て待て、そんなに近づかないで!! お願いだから!!


 やばい、これは非常にヤバイ。



「あのね、私、実はあれ・・持ってるんだぁ」


「え?」



 彼女は、耳元でささやいた。



ドラゴンの卵・・・・・・



 えっ。


 ドラゴンの、卵? 龍の卵って事か?



「ほしい?」


「……くれるんですか?」


「ん~、どうしよっかなぁ。じゃあ代わりに何かちょうだい?」


「え、じゃあ、いいです」


「そう? つまんなぁい」



 いや、そんな可愛く頬っぺた膨らませないでください。上目遣い禁止!! ダメ!!



「でも、私としても持ってても邪魔なだけだから誰かに引き取ってほしいって思ってるんだけどな。お礼は、おにーさんの好きなものでいいよ♡ もちろん、ワタシでも♡」



 いやいやいや、それはいいって、それはいいですから。


 でも、卵か……



「……それ、どうやって孵化・・させるんです?」


「貰ってくれるの!」


「あ、いえ、ただ気になっただけで」


「そう? 卵を孵化される方法はね――魔力」



 え、魔力?



「魔力を注ぐことで孵化させられるの。卵のランクで注ぐ魔力の量は変わってくるんだけど」


「……へぇ」



 魔力か。それだけで卵を孵化させられるのか。簡単じゃん。あ、でも俺の場合はチートステータスだから簡単なだけであって、他の人達が持ってる魔力量は分からないんだけどさ。


 でも、なんか引っかかる。



「興味、湧いてきた?」


「あ、まぁ、知らなかったんで」


「中々お目にかかれない代物だから、無理ないわ。でも私としても、おにーさんに引き取ってもらったら嬉しいんだけどな」



 いや、だから上目遣いやめてください。近いって。


 直視出来ないって!! って思っていたら、なんか押された、お姉さんに。



「ねぇ、ダメ?」



 押し倒された。


 座ってたソファーに。


 上に、お姉さんが乗ってきた。



 待て待て待て、ちょっと待て!!


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