◇31 手のひら返しとはこのことを言うのか
こっちであってるか? と思いつつも孤児の子供たちを乗せたバスを追いかけた。すると、目の前に見えてきた。古代文明で出てきそうな大きな建物が。
近くまで行くと、入り口が見えてきた。その前でさっき見たバスと、警備兵達と誰かが見える。何か喋ってるな。
「ですから、孤児の子達には治療費の他に身元確認をする分のお金がかかりますと申しているではありませんか」
「ですが我々は隊長の命によりここに連れてきたのです」
「ですがこちらにも決まりがございます。決まりは守っていただけなければ困ります」
警備兵達は顔を見合わせて、じゃあ、と頭を下げていた。え、帰る気!?
ちょい待ちちょい待ちちょい待ち!! それで引き下がるのか!? まぁこいつらのあの態度じゃ分からなくもないけどさ!!
だから、無意識にこいつらの間に割り込んだ。
「ちょっと待て、治療は受けられないのか」
「貴方は」
「この子達の第一発見者。それより、金がないと治療受けさせてもらえないのかよ」
「我々は神の遣いです。それにはそれ相応の供物を献上しいただかなければなりません」
「じゃあいくらだよ」
「えっ」
「いくらなら診てもらえんだよ。だったら俺が払ってやる。いくらだ。まさか、俺ら平民が暮らしに困るほどの高額を言うわけじゃないよな。神様っていうのは俺らにそんな酷な試練でもお与えくださる奴なのか?」
「ッ……それは女神様への冒涜だぞ!!」
「冒涜ぅ? んなもん怖くも何ともねぇよ! 酷いことしかしない神様なんて崇める意味ねぇだろ! お前ら頭馬鹿なのか? 孤児なんて親がいないだけのお前らと同じ人間だろーが! そんな事も分からないんかよ!」
「貴様ッ!!」
「お前に貴様なんて呼ばれる筋合いねぇ、よ……?」
「ッ!?」
いきなり目の前が光った。
『やはり血は争えないですね』
空から、女性の声がした。
『勇者アンリークの孫よ、初めまして。わたくしは天空の女神と申します』
……誰だお前。
いや待てよ、天空の女神ってどっかで聞いたことのあるような……
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【天空の女神の祝福】
【深森の魔女の祝福】
【深海の人魚の祝福】
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あ、あった。俺のステータス。そんなものあったな。
てか、この光目の前じゃなくて頭? 額? 辺りが光ってないか……?
「なッ、その額の紋章は……ッ!!」
目の前の神殿のやつが、両膝を地面に付け、両手を組み俺を見つめてきた。え、気持ち悪っ。
「お探ししておりました!
……デジャヴった。なんだそれ、聖者ぁ?
『歓迎いたしますよ、ルイ。さぁ、神殿の中へ』
「いや知らねぇし。てかこの額の紋章とやらをさっさと消してくれ」
『あら、気に入りませんでしたか? せっかく1ヶ月かけて考えてデザインした紋章ですのに』
え、1ヶ月もかけたの? お疲れ様です。じゃなくて!
「あの、非常に迷惑なんでやめてもらえます? 聖者とか」
『つれませんね。アンリークとそっくりです。ですが、もしまた何かありましたらぜひ神殿にお越しください。歓迎しますわ』
「あーはいはい分かりました」
あ、額の光消えた。良かった、でもあとで鏡で確認しないと。
「聖者様、もしや先程女神様とおはなしなさったのですか! まさかお話しなさるとは! 歴代の聖者様を上回るほど女神様に愛される聖者様とは! お会い出来て光栄です!」
「いや違ぇし、俺聖者じゃねぇし。だからそれやめてくれ」
「いえっ! 私はこの目ではっきりと見ました! あの紋章はまごう事なく聖者様の証です!!」
……うぜぇな、こいつ。さっきまで貴様だとか何だとかって言ってなかったか、俺に。
「とりあえず、あの子達の治療と身元確認よろしく」
「かしこまりました!! では聖者様はこちらへ!」
「は?」
「聖者様は女神様により近しい存在です。聖者様のお声は女神様のお声。ですからどうか我々信者をお導きください!!」
いやいやいや、そんな事言われてもな。こっちが迷惑なだけなんだが。
聖者とかなんだとかって聞いたこともないぞ。何、導くとか何すりゃいいんだよ。でも面倒な事だってことはよく分かってるんだからな。
さて、どうしたものか。
「……じゃあ、一度しか言わないぞ」
「は、はいっ!」
「神殿は、孤児を支援し導く事。いいな」
「はいっ!」
「平民や貧しい奴らから金を巻き上げるなんてことをするな。取るなら持ってるやつから取れ」
「な、なるほど」
「あと、俺は旅をしつつ困ってる人を助けろと女神様からお告げをいただいたから、ここにはいられない。聖者の事も他言無用だ。徹底しろ」
「かしこまりましたっ!!」
え、さっきとは全然違う態度だな。面白いくらい手のひら返しだ。
さっきまでだいぶ女神様貶したのにいいのか、これ。けど上手くいったし、ま、いっか。
じゃあよろしく頼むよ、そう言っておいた。
お前らもな、と警備兵達にも口封じ。よし、これで万事解決。
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称号:勇者の孫
パラウェス帝国皇太子殿下
神殿の聖者
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俺のステータスの中にまた一つ面倒なものが追加されていたことに気が付くのはその数時間後の事である。
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