◇30 いやいや酷すぎだろ


 あの後、19人の子供たちをとりあえず森から出した。バリスに大きくなってもらって背に乗せて何往復かして。



「どした、トロワ」


『なんでもな~いよ。それより飴ちょうだい!』


「はいはい」



 とりあえず、近くの人に助けてもらえるよう言いに行くことにしよう。子供達が森の中で倒れてるって。だからまずはバリスとトロワには精霊界に戻ってもらおう。


 ……そういえば、アグスティンは精霊召還を解除したけど、今精霊界にいるのか? 故郷じゃないはずなのに。まぁそれは後にしよう。


 とりあえず警備兵がいる警備所に行ってみよう。子供達を放置することになってしまうから、バリス達は連れて戻ってきた辺りで戻そうか。


 地図を広げて、警備兵がいる所の場所を探す。まぁ本当は警備兵に頼みたくはない。行方不明になってるって言ってるのに探しに行ってくれなかった奴らだ。でも、普通なら警備所に行くのが普通らしいからしょうがないよな。



 警備所のある場所は、ここからちょっと離れたところにある。まぁ俺が走ればすぐな距離なんだけど。


 あ、ここか? 何となくギルドと似た建物だな。



「すみませーん!」


「何の用だ?」



 扉を開いてみると、受付みたいなテーブルがあって、そこの向こう側に男性が座ってる。いろいろと装備されたてるから警備兵の一人だろう。てか、なんかやる気なさそうな顔だなこいつ。



「あの、あっちの森の近くで子供が何人も倒れてるのを見たんです」


「子供? あっちの森か」


「はい」



 少し考え事をしてから俺に身分証を出すよう言われて、それから受付のテーブルの向こう側にある部屋に入っていった。


 戻ってきたら、話を聞こうと違う人が出てきた。え、怖そうな人だな。なんか顔に傷がついてるし。


 詳しく説明してくれ、と言われてただここに来たのは初めてだから街の散策をしていたらたまたま見つけたと答えた。



「分かった、今からその現場に向かうから案内してくれ。お前たち! 準備できたか!」



 おぉ、男性が何人も出てきたぞ。武装してきたけど、やっぱり獣人のハンターたちよりこっちのほうがちゃんと付けてるな。まぁ町の警備兵だからちゃんとしてるよな。


 じゃあよろしく頼むぞ、と一緒に行くことになった。



 そして、ようやくたどり着いた。到着する直前でバリスとトロワを召喚解除。あとで二人にお礼しないとな。



「怪我してんな、神殿に連れていくぞ」


「はいっ」



 後から来ていたバス? に乗せていて、これから神殿に行くらしい。一応俺も治癒魔法使えるけどこんな所にいてピンピンしてるなんて疑われかねないから仕方なくそのままに。


 でも、その中の一人がこう言った。



「なぁ、こいつら孤児・・じゃねぇか!」


「えっ、マジかよ」



 え、何だよその言い方。しかもこの空気。孤児ってだけでそんな反応するのかよ。



「おいお前ら! さっさと動け!!」



 そう隊長さんらしい人が言ってやっと神殿に向かっていったけど。


 親がいないだけでそんな反応をされるなんて可哀そうだ。まだあの子たちは子供なんだぞ?


 まぁ、俺がとやかく言っても何にもならないのは分かってるけどさ。



「じゃあ、所に戻って書類を書いてくれ」


「あ、はい、分かりました」



 怖い隊長さんみたいな人がそう言ってきた。



「君、ここに来るのは初めてか」


「あ、はい」


「さっきの、驚いてただろ」



 さっきの、というのは孤児って言葉が出て変な空気になったことの事だろう。あの警備兵たちの反応。



「ここは孤児に対する考え方が違うんだ。国自体があまり孤児に対して無関心なところもあるんだろうがな」


「あまりよく思ってないってことですか。ただ親がいないってだけじゃないですか」


「あぁ、俺としてもこれはいただけないことだと思っているんだが、俺一人の力ではどうにもならないのが現状だな。きっとあの子達が神殿に行ったとしても、孤児だからと医療費の他にも請求することだろうな。あそこに行けば治療の他に身元も分かるだろうが、うちは貧乏な警備所だから」


「え、じゃあ身元が分からない子達はどうなるんですか」


「この町にある孤児院に送る事になるな。だがこの町には一軒だけしかない。でもあの子供達の中であそこの子は5人のみだ。他の町からさらった子供達は14人という事になる。その意味が分かるか」


「身元が分からないから送り届けることが出来ない、という事ですか」


「あぁ。役場に行ったとしても成人していないから行っても無駄だ。神の遣いだなんて言ってる神殿のやつらが孤児にこんな扱いをするとは、呆れてものも言えないさ。そもそも、俺ら平民に対しても馬鹿高い治療費を請求してくる。ただの金の亡者だ」



 あの孤児院に大人はおばあさん一人だけ。今でもギリギリな生活をしているように見えたし、建物も老朽化していて14人も増えたら狭すぎて生活が困難になる。


 それに何より、14人の子供達が済んでいた孤児院の皆が、あの子達の帰りを待っているはずだ。不安になっているに決まってる。



「……ちょっと行ってきます」


「え? ちょ、兄ちゃん!!」



 確か神殿はこっちだったな。とりあえず、全速力でバスを追いかけた。


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