◇33 俺は何も見なかった

「ねぇ、ダメ? ルアン……♡」


「……」



 俺、これどうしたらいい……?



 1.わかりました、と卵を引き取る。


 2.とりあえず強引ではあるけれど彼女を押し戻す。


 3.そのまま。



 いやいやいや、3番はないって!! そのままにしたら何されるか分からないんだぞ!! お姉さん酔っちゃってる? 酔っちゃってるよね!?



「……あの、さすがにそんな貴重なものもらえませんよ」


「おにーさんかっこいいからあげちゃおうかなって思ってるんだけどな♡」


「あの、まずはどいてくれません……?」


「やーだ♡」



 いや、ちょっと待って、それ押し付けないで、お願いだから、本当にお願いだからっ!!


 もう視界的に耐えられなさそうだったから顔を手で覆ったけれど、クスクス笑いながら「どーしたの、ルアン♡」って名前呼んでくるし。俺もう無理なんですけど!!



「本当にこれ・・、ほしくないの?」



 ……え、これって言った?


 なんかずっしりと重くなった。俺の上におねーさんが乗ってるけど、それの他に何かの重さが。手をどけたら……彼女が何かを抱えていて。


 それ……真っ黒な卵だ。


 しかも、結構大きい。生まれたての赤ちゃんくらいのサイズだ。



「……それ?」


「そう、これ」



 なんか、なんかオーラみたいなのを感じる。てか、これどこから出したんだ? もしかしてお姉さんもエルフお姉さんが持っていた収納魔法道具みたいなのを持ってるのか?


 けど、これ……



 ______________


 名前:悪魔族の王族の卵

 種類:卵

 ランク:SSS

 悪魔族の王【魔王】の器を持つ子が眠っている卵。

 規定量の魔力を注ぐことにより孵化ふかする。

 今は亡き悪魔族の皇后が10年かけて産んだ卵である。


 ______________




 ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!!


 なんじゃこれっ!! はぁ!? 魔王の卵だって!? え、なんでこんなものがここで出てくるんだよ!! はぁ!?


 じゃあどうしてこのお姉さんがこんな得体のしれない恐ろしい卵を持ってるわけ!? え、なんで!?



「あ、分かっちゃった?」


「……え」


「見ぃつけた♡」



 いきなり両手首を掴まれた。すごい力だ。と言っても振り切れるくらいの力だが。



 ______________


 【魔法無効化】自動発動中


 ______________




 お姉さんの目が赤黒く光った瞬間、その表示が出てきた。いったいどんな魔法を俺に使ったんだ……!? 待て待て待て、俺をどうする気!?



「貴方の魔力、ぜぇんぶ貰っちゃうんだから♡」


「え”っ」



 え、待って、ちょっと待って、その口!! なんか牙生えてません!? え、待て待て待てお姉さん何者!? え、もしかしなくても悪魔っすか!?



「え、悪魔……!?」


「そ。悪魔♡ でもおにーさん、悪魔は嫌い?」


「え?」


「私はただ、お願いをしたいだけなの。この時期魔王様となる殿下の、ラミス皇后殿下が守り続けた我が子であるこの方を目覚めさせたいだけなのよ。君には分かるかな」


「でも、前の魔王は……」


「あの方は我々と考え方が違った、それだけよ。我々は新しい王の誕生を切に願っているわ」



 いや、考え方が違ったってだけであんな大戦争を起こすのか。まぁ、戦争の火種ってもんはどんなものなのか俺には分からないけれど……でもその新しい魔王がまた戦争を起こす可能性は0ではない。とは言ってもそれは魔王に限ったことではないわけだし……



「……孤児達をさらったの、お姉さんの指示?」


「まぁ、私が直接というわけではなくて部下が勝手にやったわけだけど、あの後ちゃんと無事に返すつもりだったことは確かよ。まぁ信じてもらうつもりはないけれどね。

 我々悪魔族は魔力は獣人と同じく少ないほうよ。だから中々魔王様を誕生させるのに難航していたから、魔力の多い人間族に魔力を分けてもらうはずだったってだけよ」


「ふぅん」



 まぁ、血気盛んだった、とも言えるんだろうけど。最初のオカマは俺がじいちゃんの関係者だからと攫おうとしていたから正当防衛だった。次の子供達を攫ったあいつ等は子供達を見つけて助け出そうとしていた俺を始末しようと立ち向かってきたからこれも俺は正当防衛。



「血気盛んだった、って言いたいわけ?」


「う~ん、連れてきたのは傭兵だったからってのもあるから仕方ないんだけど……悪気があったわけじゃないのよ」


「……俺は何も聞かなかった。悪魔とも会わなかった。それでいいか」


「なかったことにするって事?」


「だって俺には被害とかないし。魔王の卵は……自分達だけで何とかしろ。俺は知らん」


「ダメ?」


「ダメ」


「つれないなぁ」


「強制とかするならこっちも黙ってないけど」


「君は強そうだからやめておくよ。優しい獣人君」



 つん、と鼻をつつかれ俺の上から降りたお姉さん。大事そうに卵を抱えている。



「それ、急ぐ理由は?」


「パラウェス帝国が不穏な動きをしているのが一番の理由ね。私達の国、悪魔族の国は帝国の監視下に置かれているから何か言われてもこっちは何もできないから」


「え?」


「大戦争で敗戦国となって、戦勝国である向こうからの条件の内の一つにそれが入っているのよ」



 あ、そういう事か。大戦争はパラウェス帝国と悪魔族の国の戦いだったんだっけ。勇者アンリ―ク(じいちゃん)が魔王を撃ち取ったってやつ。


 でも、監視下に置かれているのか。



「ごめんなさいね、うちの子達が。まぁ謝って済むようなことではないけれど。じゃあ、代わりに私の事おにーさんの好きにしていいよ♡」


「あの、それは本当に要りませんから大丈夫です、謝罪だけで」


「そう? ざーんねん」



 いや、本当に残念がらないでくださいよ。俺は知りませんからね。



「まだ飲む?」


「いえ、あとはお姉さんが飲んでください。俺いっぱい飲んだんで。じゃ」


「うん、またね」



 とりあえず、逃げ切った。マジでやばかった。何が? 色々だよ、色々。





『ルアン~! 召喚するの遅~い!!』


『ルアン~!』


「色々あって忙しかったんだ」


『酒の香りがするぞ』


「あ”」


『ル~ア~ン~!! それど~ゆう事!!』



 とりあえず、夜はめっちゃうるさかった。でもまぁ無事だったから良しとしよう。


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