◇3 ……マジかよ。

 早く森を出たいと思っていても、やみくもに進んでも出られる保証はない。


 だから【無限倉庫】を漁って地図なるものを探してみた。地図の他にも、何か安全策とかあるかもしれないし。



「あ、あった」



 これは……世界地図か。出してみると、水晶のようなものが出現して。何となく手をかざしてみたらシステムウィンドウのように世界地図が目の前に出現したのだ。


 やっぱり、じいちゃんがいた世界はここだったらしい、この場所の現在地まで表示されていた。


 この大陸は地球とは全く違う形をしているから、何となく俺のいるところは地球じゃないんだって事が実感出来たような、ないような。まぁどこか人のいる所に行けば嫌でも実感するだろうけれど。


 とりあえず、俺は人のいる場所に行きたい。まさかこんな所で一日二日過ごすなんて御免だな。モンスターに狙われつつ野宿だなんて勘弁だ。



「なぁんだ、この国? の帝都すぐそこじゃん」



 ここはパラウェス帝国という国の帝都の近くらしい。どんな国なのか分からないけれど、とりあえず人のいる所で情報収集でもしたい。というか、腹減ったかも。


 さてと、行き先も決まったし行ってみるか。……歩きだけど。



「はぁ、せめて自転車ほしい……」



 とは言っても足場の悪い森の中。自転車なんて乗れるわけがないのは分かってるけどさ。


 そんな馬鹿な事を考えつつ、とってもいいお天気の中、俺は一向に景色の変わらない森の中を歩き続けた。またモンスターが出てくるかもしれないとハンマーを握りしめて。手汗ヤバいけど。


 まぁ、言わずもがな。これはお約束ってやつか。



『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』



「う”わ”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」



 またもや、俺は狼に追いかけ回されている。何故? いや、知らん。


 手汗のヤバい手で持っていたハンマーを握りしめて、追ってきたモンスターに向かってハンマーを振った。



「ぅお……りゃぁぁっ!!!」



 あぁ、またまた森林破壊です。すんません、でも背に腹は代えられないんですわ。死にたくないも……



『ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』



 人間は、例え死の危険が迫っていたとしても3回目で慣れるようだ。



「……ふっざぇんなぁぁぁぁぁぁ!!!!」



 思いっきり、グレートウルフの頭を地面にたたきつけたのだった。なんか、地割れしちゃったけど。



「何でこんなに出てくるんだよっっ!!!」



 だがしかし、この森でちゃんと言葉を喋る生物は俺だけらしい。


 何か喋りやがれこのアホ!!!!



 その後も、何匹もグレートウルフが俺に襲い掛かってきた。そして、力を入れず奴の頭に当てるスキル(?)も身に付けた。丁度いい力加減だったかも。簡単に吹っ飛んでくれるし、地面も抉れない。頭はつぶれてるけど。


 とは言ってもそれは余裕があった時だけであって、余裕のない時は遠くまでふっ飛ばしてしまっていた。


 一体俺は、どれだけ森を破壊してしまったのだろうか。あぁ、考えただけでも恐ろしい。



「あっ!」



 薄暗い森の中。向こうに、明るい場所が見えてきた。これはもしかして! と走ってみたら……



「す、げぇ……!!」



 目の前に広がる、草原が一面にあった。


 すげぇ、こんな所見た事ない。


 それと……あれは、何かの壁か? あれか、帝都を囲んだ城壁とかそういうやつか。


 よっしゃ~! そんなテンションで走り出した。さっきまでの疲れは、ちょっとだけではあるけれど吹っ飛んだみたいだ。


 森とは違って障害物がないから一直線に制限なく走れる。しかも足が速くなったみたいだからすぐに辿り着けそうだ。今だったら50m走再更新記録出せるかも! 当たり前だけど!




 やっと城壁にたどり着いた。あ、あそこに並んでる人達がいる。あそこから入れるのかな。とは言ったものの、どうやって入ればいいんだろうか。


 俺、今なにも持ってないし、それにだぼだぼパーカーにジーンズっていう何ともラフすぎる格好なんだけどなぁ。


 そもそもバッグすら持ってない。荷物なしだけど、俺の持ってる【無限倉庫】なるものって皆さん持ってるもんなのか? あ、でも皆さん荷物沢山持ってる。マジか。どうすっかな。



 ちょっと行くのはやめよう、そう思い離れつつ【無限倉庫】を開いた。ハンマーをしまってから、何か使えるもの……あ、包帯あった。じいちゃんこんなもの持ってたんだ。これで右手首の刺青隠せるじゃん。


 あとは……バッグみたいなの無いな。まぁこれがあるから不必要なんだろうけどさ、別にあってもよくない? 無駄なもんはいらないってか、じいちゃんよ。



 

 ______________

 【無限倉庫】

 【No.7 金関係】

 ・身分証

 ・勇者証明証

 ・ハンターギルドカード

 ・暗殺ギルドカード

 ・商業ギルドカード

 ・121,950,048,308G

 ・33,285,694DD

 ・2,098,674,532BC

 ・66,574,830,098Es

  etc.

 ______________





 ちょっと待てぃじいちゃんっっっ!!!


 おい、ギルドカードとかあるみたいだけどさ、その『暗殺ギルドカード』って何だよ!! おいおいそんな物騒なギルドに所属してたのか!? 待て待て待て、おかしいって!!


 いや、じいちゃんの事だから何かあったんだろうけど……勇者が暗殺ギルド入っちゃっていいの!? てかどうやって入ったの!?


 それとさ、この数えられない数字はなんだよ!! これもしかしてお金だろ!! 一体何種類の国の金持ってるんだよ!! しかも数字が半端ないって!! 勇者って金持ちだなおい!!


 じゃあこの国のお金ってどれよ、いっぱいありすぎて全く分からないんだけど!? なんか説明書とかないわけ!?



「はぁぁぁぁぁ、じいちゃん頼むよぉ……」



 うん、まぁ、お金はぼちぼち盗み見てどのお金だか把握するにして、もし持ってなかったら何か売ればいっか。取り敢えずはあの門をくぐらなきゃいけないって事なんだけどさ。


 ……ん? あぁ、なぁんだ一番下に袋あんじゃん。


 出してみたけど、これならいけるいける、バッグっぽい。肩にかければ完璧じゃん。んじゃ中には何を詰めるか……


 とりあえず、野宿に使ってたのか分からいけど布を詰め込んでみた。



「え、なにこれ。そのまま突っ込んだのか」



 お金を引っ張り出してみたんだけど、貰ったまま突っ込んだのか巾着袋に入ったままのお金が出てきた。これならお財布代わりに出来るかも。だから、そこにいろんなお金を少しずつ入れてみた。


 並んでる前の人がお金を出した時に注意深く見てれば、ここの国で使われてるお金がどれか分かるだろうし、そのお金を探せば何とかなるだろ。


 はぁぁぁぁ、と海よりも深い溜息をつきながら並んでいる人達の最後尾に並んだのだ。




「おや、見ない装いですね」


「え?」



 話しかけてきたのは、俺の前に並んでいる人。そうだな、60過ぎくらいの男性か。見たところ、異世界の平民みたいな恰好をしてる。持ち物も結構多いな、これ全部持ってここまで来たのか。あ、馬車とかに乗せてもらってたとか?


 じゃあこの人、収納できるスキルは持ってないって事か。



「どこから来たのか聞いても?」


「あ、えぇと、東の方から。だいぶ田舎から来たので」


「なんと、都会デビューという訳ですね」



 うん、まぁ都会デビューだな。森から帝都だしな。



「貴方はどこから?」


「私はポポス地方から、新しい職を探しに来たんです。帝都の方が賃金が高いですから」



 へぇ、新しい職か。俺もとりあえず状況把握してから職を探さなきゃな。あ、でももしこの国のお金を持ってたら働かなくて済むけど。どのお金も尋常じゃない額だったからな。


 話をしていく内に、何となくこの国の事が分かった。


 最近この国の女帝が亡くなった事、程なくして女帝の旦那が即位した事。


 へぇ、女帝っているんだ。普通は皇帝だもんな。男が即位するのは俺が読んできたマンガで大半だった。



「ここだけの話、女帝が亡くなった原因は毒殺だと言われています」


「え、毒?」


「えぇ、それも身近な方に盛られた、と」



 一番身近な、って事は、旦那? うわぁ、異世界怖いわぁ。


 てか、見ず知らずの俺に教えちゃっていいのか? まぁ噂になってるみたいだけどさ。アンタこれからその旦那が治めてる国の帝都で働くんだろ、いいのか。



「次、身分証と2万G」


「え、2万Gですか」



 知らず知らずにさっき話していた男性の番が来て、身分証と一緒に金色の硬貨を2枚渡している所が見えた。2万Gって事は金貨1枚で1万Gって事か。



「値上げになったんだよ」


「値上げ……だいぶですね」


「あぁ、新しい皇帝が即位されたからな」



 てことは、2万Gって結構な額だって事か。でもGって無限倉庫の中にあったな、よかった。



「次、兄ちゃん。身分証と2万G」


「えぇと、お金はあるんですけど、身分証を失くしてしまって」


「はぁ? 失くした?」


「はい」


「兄ちゃん、どっから来た?」


「……レレラスから」



 それは、世界地図を見て適当に言った。顔が違うかもしれないけれど、まぁ親がどこ出身か、は聞かれてないからな。


 ふぅん、と言われた後、その門番は、何かに気が付いたような、そんな顔をした。え、何かバレた?



「名前は」


「……ルイ・オクムラです」


「いくつだ」


「16です」


「一人って事は、両親は今どこだ」


「……どうしてそこまで聞くんです」


「……」



 俺のその問いに、黙った門番。そして、



「……身分証がない方は、書類作成を行いますのでこちらにどうぞ」



 いきなり、話し方を変えてきた。しかも、違う場所に連れていこうとしている。待て待て、何かやらかしたか、俺。でも全然分からん。あ、もしかして16って事はここでは未成年? 親がいないと入れない感じか?


 でも、敬語だろ? 未成年に敬語使うとかおかしいって。


 門の隣にある6畳間くらいの部屋。その中に招かれた。置かれている机の椅子に座らされる。その机の上には、水色の水晶のようなものがある。



「手、乗せてみてください」


「これ、なんですか」


「……犯罪歴などが表示されるものです。犯罪歴のあるものをこの帝都に入れる訳にはいきませんから」



 なぁんか、嫌な予感がするんだよな。まぁでも、この帝都に入れてもらうには、これやらなきゃいけないって事だよな。


 俺は渋々、その水晶に手を乗せてみた、ら……



 ……すぐに後悔した。



 光ったのだ、水晶が。青白い光を放って。そして、俺の手の上に紋章が浮かび上がってきた。システムウィンドウみたいなやつだ。……なんかライオンみたいな模様が。なんか、貴族とかの紋章みたいな。


 やっべぇ、なんかやべぇ。何かやっちまったよな、俺。



「お探ししておりました。――第一皇子殿下」



 ……マジかよ。


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