12

「どうぞ」

そう言って、真子さんが二人にソファを勧める。


二人はおずおずと、


いや、おばあさんの方はニコニコとソファに座った。


俺は、そんな二人の横に座るわけにはいかないので、真子さんの隣に腰を下ろす。


時刻は夜10時。

真子さんは二人を呼んでどうするつもりなんだろうか。


「いちくんが入れてくれるお茶、すごい美味しいんですよ

あ、お菓子もどうぞどうぞ」


真子さんは机の上に置いてあったお菓子を指していう。


おばあさんの方は

あら、いいの?なんて言って焼き菓子をつまみ始めるが、ひなちゃん(仮)の方はそんな気分にもなれないようだ。


そのまま、なんとも言えない気まずい空気が流れる。


「こんな夜に申し訳ありません…」


真子さんも少し申し訳無さそうだ。

しかし、ちゃんと話すならばここしか無いと思ったのだろう。


申し訳ないと謝りながらも、お開きにする意志は全く感じられない。


「お待たせしました」


しばらくの間無言が続いたあと、

いちくんが後ろの扉からお茶と共に姿を現した。


「フルーツティーとか大丈夫でしたか?」


そう言いながらグラスを人数分机の上に置く。


グラスにはフルーツと共にきれいな飴色の液体が満たされ、氷がカランと音をたてる。


「夜とは言え、暑いので、冷たくして見ました」


その言葉に、自身の喉の乾きを自覚する。

外で何時間も待っていたのだ。

喉が乾いて当然だろう。


ここ最近は毎日帰りに麦茶をごちそうになっていたのだが、今日のフルーツティーは格段に美味しそうだ。


真子さんがいただきますと言ってグラスに口をつける。


それを筆頭に皆、一口とグラスを手に持った。


「美味しいですね」


ひなちゃん(仮)が、ほわっと表情を緩める。


今まで張り詰めた表情しか見ていなかったからか、だいぶ雰囲気が変わることに驚いた。


そうなるのも頷ける。


お茶のなんたるかは全く知らないし、

ティーを楽しむ機会も趣味もないが、

これは身に染み渡る。


労働帰りの身ならそれは更にだろう。


真子さんがふーっと長く息を吐き出す。


「お茶を飲んで一息ついたところですし、

少し、ゴミ捨て場の事についてお話しさせていただきます」


緩んだ空気が一気に引き締まった。


公園での説明で、真子さんからあらかた話は聞いていたのだろう。


ひなちゃん(仮)は眉を顰めて

すみませんと謝った。


その言葉に真子さんは緩く首を振った。


「陽子さんにも事情があったんだと思うんです。

聞いていただけますか?

日菜子さん」


どうやらおばあさんの方は陽子さん

ひなちゃん(仮)は日菜子さんという名前であるらしい。


日菜子さんは戸惑いながらも頷いた。

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