8
「それで、いちくん、なにか分かった?」
いちくんは真子さんの隣に座って、深く息を吐いた。
机の上には今持ってきてくれたばかりの冷たい麦茶が3つ置いてある。
「たぶん、探してるのは、娘さんのものなんじゃないかな。
ごめんね、とか捨てちゃったって気持ちが、薄っすらと感じ取れたから」
いや、まて。
何の話だ。
いちくんが話しだした内容に内心首をかしげる。
「あ、今のは、おばあさんの気持ちについてです
集中すると、結構わかること多くて」
俺の気持ちを感じ取ってくれたのか、いちくんが付け加える。
ありがたいが、自分の気持ちが筒抜けな気がして恐ろしい。
秘密がすべてバレてしまうのと同義だろう。
「いちくん
その人に慣れれば、シャットダウンも出来るんだよね」
真子さんが一口麦茶を飲みながら言う。
氷が鳴って美味しそうだ。
一旦俺も頂こう。
「うん。
まだ慣れてないですけど、3日くらい経てば哲さんもシャットダウンできると思います。」
麦茶の冷たさといちくんの言葉に少し安心する。
3日経てばいちくんに心の中を悟られなくて済むわけだ。
いくら疾しいことが無いとは言っても、
やはり気持ちを悟られるのは気分の良いものではない。
「すみません。
しばらくの間不自由おかけします。」
そうやって頭を下げる。
今のところ、エンパシーとやらは、すこぶる良好のようだ。
「話を戻しましょう」
頃合いを見計らって真子さんが話し始める。
「それにしても、娘さんのものか。
娘さんって言うのは最初に出てきてくれた女の人でいいんだよね」
その確認にいちくんは頷いた。
「そうだと思う。
だけど、捨てちゃったのはだいぶ前かな。
それこそ、あの女の人が幼稚園とか小学生とか、
ぐらい」
だいぶ前だな。
それならば捨ててしまった物が残っている可能性は限りなく0に近いだろう。
それにしても、エンパシーとはすごいな。
二人の様子を見ているとこれまでもこの力を使って依頼などをこなしてきたのだろう。
俺も、慣れていかねば。
いちくんの方を見ると困ったような笑顔でちょっとだけ頭を下げた。
お願いします。みたいな意味だろう。
たぶん。
「どうしようかな。
今、浮かんでる解決方法としては…」
真子さんは耳の上に当てていた指をおろして、いちくんと俺に目を合わせた。
なにか浮かんだらしい。
そのまま人差し指をたてる。
「1、おばあさんがゴミを荒らしている犯人という証拠を見つけてなみちゃんにお知らせする。」
また、追加で中指もたてて、
「2、おばあさんが探しているものは何かを見つけて、探しもの自体を解決する
のどちらかです。」
と、言い切った。
どうやら、おばあさんが犯人じゃない可能性はないらしい。
いちくんの言葉を完全に信頼しての考えだろう。
「とりあえず、おばあさんとお話をしたいです。」
少し上げていた手をおろして真子さんが言う。
「探偵らしく、張り込みしましょうか。」
真子さんが笑う。
その笑顔にちょっといたずらっ子みを感じる。
おとなしい女性のイメージだったが、どうやらそういう1面もあるらしい。
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