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「いや、ちょっとドキドキしましたね」


認知症のおばあさん、江南さん宅を訪ねてから

なみちゃんにお茶を頂いてその帰りである。


真子さんが胸に手を当てながら言った。


もう片方の手には大きめの白菜が一つビニール袋に入れられてぶら下がっている。


なみちゃんが真子さんに渡した本日のお礼だった。


「こんなに立派な白菜、嬉しいですね」


真子さんはホクホク顔で白菜を見つめる。

なみちゃんの実家が送ってくれたものらしい。


「でも、お礼が白菜で大丈夫なんですか?」


コインランドリーでの一言がずっと気になっていたのだ。


近所の人からお金を取らないとなると、どうやって生活しているのだろう。


他の依頼を受けていても、流石に限界があるだろう。


そう思って聞いてみたのだが、真子さんはこちらをきょとんと見つめ返すばかりだ。


「僕たち結構遺産があって、それで大丈夫なんです。」


俺の言いたいことを読み取ってくれたのだろう。

代わりに答えてくれたのはいちくんだった。

それに、真子さんもああ、という顔をする。


「安心してください。

お給料はちゃんとお払いしますから。」


その言葉を聞いて安心した。


一応事前に、時給いくらでと話はされていたものの、お金をもらっていないところを見るとやはり心配してしまう。


「心配させてしまってすみません。」


真子さんがこちらに向かって小さく頭を下げる。


「いやいや、いらない心配してしまってすみません。」


こちらも頭を下げると真子さんは緩く首を振った。


「そういえば、この後まだ時間ありますか?

作戦会議をしたいんですけど。」


真子さんは後ろを振り返る。


雨之相談処の事務所に続く、コインランドリー横の階段が上に伸びていた。

事務所で、ということだろう。


「大丈夫です。」


そう答えると、真子さんは良かったです。と言って、急な階段を登り始めた。


いちくんは先に登って鍵を開けている。 

その手には白菜のビニール袋が、

いつ真子さんから受け取ったのか。


話し方といい立ち居振る舞いといい。

好青年すぎるぞ、雨宮いち。



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