探しもの
5 ゴミ置き場荒らし
ピンポーンと良く聞くような軽快なチャイムが
誰もいない真昼間の廊下に鳴り響いた。
時刻は午後3時。
雨宮さんと俺はなみちゃんと一緒に団地まで出向いていた。
もう一人、雨宮さんの弟だという、雨宮いちくんも一緒だ。
先程、相談処で雨宮さんとお話しをした時に、紹介されたのだが、年齢よりもだいぶ大人びて見える。
それに、どうやらエンパシーという力の持ち主らしい。
らしい。というのは、俺がその力を信じれていないからだ。
相手の気持ちが自分とリンクしてしまう、というもので、例えば相手が水を飲みたいと思えばそれが分かるし、悲しい嬉しいとかも伝播する…らしい。
ネットで調べたところによると、情報が出てきたには出てきたが眉唾ものだ。
まあ、コーヒーを出されて飲もうとした時に、苦手なのを当てられたときには驚いたが。
偶然だろう、偶然。
ちなみにどちらも雨宮なので、雨宮さんは真子さんと呼ぶことにした。
その出会いについては後ほど書くかもしれないし、書かないかもしれない。
とりあえず、総勢四人で団地のある1室に押しかけていた。
チャイムの音が鳴り響いたあと、廊下には静けさが戻っている。
部屋で誰かが動いている物音も聞こえない。
「この時間ならいるはず、なんですけど」
なみちゃんが困ったように言って、もう一度だけというようにチャイムを鳴らした。
しかし、誰もでてこない。
やはり、留守だったのだろう。
引き揚げようか、と口を開きかけたが途中でいちくんに遮られた。
「たぶんいらっしゃいますよ」
その顔は、たぶんと言いながらも妙に確信めいている。
「もう一度だけ押しましょうか、」
真子さんはその言葉を受けて、なみちゃんに提案する。
なみちゃんは恐る恐るインターホンに手を伸ばした。
ピンポーンとまたもや、軽快な音が鳴り響く。
すると、先程まで物音一つしなかった部屋からガタンと音が聞こえた。
しばらくすると、ガチャと乱暴にドアが開かれる。
「自治会長じゃない。なにか用?」
ちょっとやつれているだろうか。
30代後半の女性が顔を出した。
いや、やつれているだけで、本当は30代前半かもしれない。
動きやすそうな黒ズボンにYシャツ。
仕事の休憩時間だろうか。
不機嫌そうに眉を顰めている。
「ゴミ置き場が荒らされている事についてお聞きしたくて。」
なみちゃんが圧に気圧されながらも問いかける。
「そんなの、知らないわよ。なんでうち?」
女性の眉間の皺が更に深くなった。
それと同時になみちゃんの後ろに立っている俺たちにも視線を向ける。
こんなに大人数で押し掛けて、疑われているみたいに感じるだろう。
そこのところまで考えられていなかった。
完全に勢いで来てしまったのだ。
あ、えっと。と、なみちゃんもどう答えていいか分からず詰まってしまった。
認知症の方がいらっしゃいますよね。などと聞けるはずもない。
「ここの窓からゴミ捨て場の入口が見えませんか?
なにか見ていないかと思って。」
横から真子さんが口をはさむ。
ナイスごまかしである。
この人実はとてつもなく頭がいいんじゃないのか?
頭の回転がとてつもなく速そうだ。
「いんや、見てない。もういい?」
女性は、心配そうに後ろをちらちらと振り返る。
ひなちゃーんと大声で呼ぶ声も聞こえてきた。
認知症のおばあちゃんだろうか。
なみちゃんは、頷いて、ありがとうございます。と頭を下げる。
女性は面倒くさそうにばたんとドアを閉めた。
4人とも少し張り詰めていたようで、ふうと息を吐き出した。
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