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「なになに真子ちゃん、なにか分かったの。」
さよさんが、目をらんらんと輝かせて、雨宮さんを見る。
いや、さよさん以外も期待した眼差しで雨宮さんを見ていた。
自分もその一人だ。
「いや、あの、認知症の方ならありえるなあ、と」
視線を向けられて居心地が悪そうに雨宮さんが言う。
認知症か。
自分で捨ててしまったもの、または捨てられてしまったものを探しに行く。
探しているものはもうとっくに回収されてしまったあとだろう。
「もちろん、いたずらの可能性の方が高いと思うんですけど。」
雨宮さんが手を振りながら言う。
みんなの目がぱあっと輝いたのを見て焦ったのだろう。
俺も、いたずらの可能性のほうが高いと踏んでいる。
何を探しているか。の段階から、想像の域を出ないのだ。
それなら、“荒らされている”からいたずらの考えに繋げたほうがよっぽど単純明快だ。
「まあ、そうね。」
興奮していたさよさんも次第に落ち着きを取り戻していく。
「良かったら、さつまいもでも食べない?」
せんさんがカバンからタッパーを取り出す。
さつまいもが黄金色に光っているようだ。
レモンと砂糖で煮たのだろうか。
「せんさんのさつまいも大好きです」
雨宮さんが嬉しそうに立ち上がる。
「あの、」
さよさんも自分も、一つ頂こうと手を伸ばしたときだった。
それまで呆けていたなみちゃんが口を開いた。
伏せていた目を上げ、雨宮さんを見上げる。
「あの、いるんです。
認知症のおばあちゃんが一人。団地に」
思わずさよさんと顔を見合わせる。
そのまま雨宮さんに視線を移動させた。
雨宮さんはびっくりしたようで、
え?と言ったまま所在なさげに視線をさまよわせていた。
「真子さん、私今日、訪ねてみます。
だから、ついてきてくれませんか?」
なみちゃんは立ち上がって頭を下げた。
「私、今年団地の自治会長なんです。
片付けるのは自治会の私達で…
他の方々が、荒らされる度にまだ解決しないのかって。」
ぽたぽたと雫の垂れる音がした。
泣いているのか。
女性の涙は見ていけないような気がして目を背ける。
「あの団地、ちょっと我が強い方が多いものね。
大丈夫よ。だって真子ちゃんは雨之相談処さんなんだから。」
せんさんが背中を擦り、さよさんが声をかける。
雨之相談処、というのが探偵事務所の名前なのだろうか。
「もちろんです。
私にできることならぜひお手伝いさせてください。」
雨宮さんはしゃがんで、なみちゃんと目を合わせた。
「えっと、お金そんなに払えないんですけど…」
なみちゃんが顔を上げて雨宮さんとさよさんをみる。
「あら!大丈夫よー!!
雨之相談処は地域の人ならお野菜とかでいいのよ。」
さよさんがなみちゃんの肩をたたく。
あの、さよさん、なみちゃんが揺れてます。
それにしても、地域の人からは野菜とかっていつの時代だ。
商売が成り立つのだろうか。
「そうですね、お気持ちで大丈夫ですよ。」
いや、それでいいのか、
俺の新しい職場。
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