生徒会 茅ケ崎会計の場合
茅ケ崎は友達が少ない。
彼の中ではそういう認識であった。
友達を作るろうと彼なりに努力はきたはずだ。
しかし、彼が話しかけるたびに皆、言葉がたどたどしくなり、喋れなくなる。
女の子に話しかけようものなら、ノートで顔を隠されたり、突如逃げられたりすることもあった。
自分は嫌われている。
そう思っていた。
だから昼休みは基本、一人で静かに読書を楽しむ。
それが彼の日課のようなものだった。
その日常をぶち壊したのがこの人である。
「あなた、うちの生徒会に立候補しなさい!」
それはどこかで見たことがあるような女性だった。
肩の上5センチぐらいの長さで、真っ直線に切られたストレートな髪。
濃い赤色の淵眼鏡の奥には鋭く、威圧感のある瞳が見える。
服装一つ乱れのない完璧な女性だった。
彼女は茅ケ崎にそう叫んで、腕を掴む。
そのまま引っ張って、教室から茅ケ崎を連れ出した。
その時、彼は彼女がおとぎ話の王子様のように見えた。
彼女が連れてきたのは、生徒会室だった。
中には、頭がもじゃもじゃした目が死んでいる猫背の男子生徒と、やけにキラキラと輝き前髪の長い男子生徒がパイプ椅子に座っている。
よく見てみるとお下げの大人しそうな女子生徒がこちらを見て、プルプルと震えていた。
「私、この子を推薦することにしたわ! 今日は放課後に早速、次の生徒会メンバーの推薦者を集めようと思うの!」
頭がもじゃもじゃの男子生徒、菰田森は茅ケ崎を引っ張って来たマイペース女子生徒、波佐間に向かって大きくため息をついた。
その露骨な態度に波佐間はイラっとする。
「菰田森! 文句があるなら、態度ではなく口で言いなさいよ、口で!!」
波佐間は菰田森に向かって文句を言い始めた。
後ろにいる茅ケ崎はこの状況についていけず、おいて行かれている。
「文句を言ったら言ったで、黙れというじゃないか。ほんと、面倒な女だな」
「あんたが口を開けるたびに嫌味ばっかり言うからでしょ!?」
波佐間は菰田森に今にも噛みつきそうな勢いで睨みつけている。
しかし、菰田森の方は一切、波佐間を気にしてはいないようだった。
そんな風に2人がいがみ合っていると、やけにキラキラした男子生徒、早乙女が茅ケ崎に近付き、顎をくいっと持ち上げる。
そして、まじまじと茅ケ崎を見つめた。
茅ケ崎もこんなに間近で見つめられるのは初めてでドキドキしていた。
しかも、早乙女の顔は整っていてとても綺麗だった。
さすが、校内で女子たちに騒がれるだけはある。
「子猫ちゃん。君はどこの誰だい?」
早乙女は気障っぽく茅ケ崎に質問した。
その後ろで波佐間が瞬時にスマホをポケットから取り出し、連写をしている。
そんな波佐間を見て、菰田森が校内での不必要なスマホの使用は禁止と注意していた。
生徒会が校則を破るのは問題だ。
茅ヶ崎は顔を真っ赤にしながら、とろんとした目で答えた。
「ち、茅ケ崎
「まひろ君かぁ。可愛い名前だね」
早乙女はそう言って微笑む。
波佐間が興奮状態になり、雄叫びを上げていた。
それを菰田森が五月蝿いと注意する。
「僕は早乙女
「やめなさい!」
早乙女の発言にいつの間にか菰田森が近づいて来て、早乙女の頭を生徒会日誌で叩いていた。
日誌の使い方をどこか間違えている気がした。
「何をするんだ、菰田森君。彼がこんなに僕に焦がれて、潤んだ瞳で見つめてくるんだよ? 僕はその期待に答えなければならない。そう思わないかい?」
「いや、全然思わないね」
菰田森はそう答えて、再び指定の椅子に座った。
茅ケ崎もそんな瞳で見たつもりはなかったのだが。
「あの、その、僕のような生徒が生徒会なんてやっていいのでしょうか? 僕、クラスの嫌われ者だし、友達とかいないし、その、皆嫌がるんじゃないかなって思うんですけど……」
茅ヶ崎は自信がなかった。
生徒会とは生徒に好かれている人気者がやる仕事で自分のようなクラスのはぐれ者がやる仕事ではないと思っていた。
しかし、目の前にいる生徒会メンバーは誰もそれに該当しないことを茅ケ崎は全く気づいていない。
「大丈夫よ。あんな泉だって、生徒会メンバーになれたんだし」
波佐間はそう言って泉を指さした。
泉は泣きながら、ひどいですよ先輩と訴えている。
茅ケ崎も別に生徒会の仕事がしたくないわけではなかった。
ただ、生徒会に選ばれるためには全校生徒の前で演説をしなければならないし、何よりも推薦人が必要だった。
茅ケ崎に推薦の演説を頼むような友達はいない。
「なら、私がしよう!」
波佐間が胸を張って、推薦人を志願した。
しかし、それを菰田森が否定する。
「それは無理だ。前生徒会メンバーが次の生徒会立候補者の推薦人にはなれない。生徒会選挙管理規約にもそう書いてあるだろうが!」
それを聞いて茅ケ崎は更にしゅんとする。
やっぱり自分ではダメなのだと感じた。
しかし、仕方がないと菰田森が立ち上がって、茅ケ崎に別の提案をする。
「1年に俺の知り合いの後輩がいる。そいつに原稿を渡して読ませるから、もしお前が本当に生徒会に立候補したいなら、そいつに頼んでやってもいい」
茅ケ崎はその言葉に感動した。
そして、そのまま勢いで菰田森に泣きながら抱き着いてしまう。
「先輩! ありがとうございます。僕のためなんかに」
菰田森もまさかこんなことで抱き着かれるとは思わずに、どう対応すべきか戸惑っていた。
そこを波佐間と泉がスマホで連写していた。
「お、お前ら!」
「私的には、菰田森は妄想圏外だからパーフェクトとは言わないけど、茉優君が可愛いからOKにするわ」
波佐間は満足そうにそう宣言する。
菰田森的にはそういう問題ではないのだ。
そして、なぜ泉まで連写したのか、彼には甚だ疑問だった。
「それでね、茉優君。選挙も始まっていないのに恐縮なのだけれど、あなたに伝えておかなければいけないことがあるの」
波佐間は真剣な面持ちで話し始めた。
茅ケ崎はどんな重要な事だろうかとつばを飲み込む。
彼女はすっと生徒会室の掃除ロッカーの前に立って、その扉をゆっくり開けた。
その中には大量のコスチュームが入っていた。
「生徒会に入ったら、これを着て校内を回らないといけないの。いわば、生徒会の正式な服装よ!」
「なわけあるか!!」
菰田森が瞬時に波佐間に突っ込んだ。
そんな話を誰が信じるというのだろう。
しかし、茅ケ崎の目は真剣そのもので聞いていた。
「そもそも、それは掃除ロッカーだろうが!! 勝手にクローゼットみたく使うな! ついでに前の中身はどこやったんだよ!」
菰田森は波佐間に怒鳴りつける。
波佐間は菰田森を鬱陶しそうに見つめ、息をついて答えた。
「そんなものはとっくに捨てたわよ」
「捨てるなよ! 学校の備品だから!」
本当に波佐間は生徒会としての自覚があるのか疑わしい。
スマホは好きなように使い、生徒会の備品を勝手に捨て、コスチュームを学校に持ってくるなど問題児にしか思えない。
そもそも、掃除道具がなくて、この生徒会室はちゃんと掃除されているのか不安になった。
清潔感大事だろう。
茅ケ崎は掃除ロッカーにぎっしち詰まったコスチュームを見ながら、波佐間に質問する。
「あのぉ、全部女性向けのコスチュームだと思うんですけど。メイド服や巫女の衣装は着れますけど、バニーガールはさすがにちょっと……」
茅ケ崎は自分が着ているところを想像しながら顔を赤らめた。
すると、波佐間はにこやかに微笑み、親指を立てる。
「大丈夫! きっと着れるから!」
「いや、それ絶対着ちゃいけないやつだから。バレリーナのチュチュぐらい着ちゃダメなやつだから!」
どうしてこんなこともわからないのかと菰田森は頭が痛くなった。
何故か隣にいる泉も赤面している。
泉は何を想像しているのかわからない。
そもそも茅ケ崎はメイド服や巫女の衣装なら着るのかとなんとも言えない真実を知って、菰田森は今後の生徒会がどうなる事かと心配になった。
その心配は的中し、今では桜木が苦労を背負わされる羽目になった。
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