第6話 殺害

「私は、今、どこにいるの? あ、自分の部屋だった。なんで、浮いているの?」


 コテージの事件から3ヶ月ぐらい経った頃、私は、自分の部屋で、宙に浮いていることに違和感を感じた。そう、さっき、会社から帰ってきて、ドアに鍵を入れたんだけど、その後の記憶がない。


 ドアに鍵を入れた時だった、後ろに人の気配を感じた。鍵をドアに入れたまま振り返ると、いきなりお腹に激痛が走り、その場で、倒れ込んでしまった。力を出して、人影の方を見ると、総務部の備品係の女性が、血がべったりついた包丁を手に持って震えていた。


「あなたは、この世の中にいない方がいいのよ。私は、あなたと出会ったことが、本当に不幸だった。これで、私の人生は幸せになるわ。」

「人を殺したら、幸せになれないでしょ。馬鹿なの? 早く救急車呼んでよ。」

「あなたは死なないきゃいけないのよ。救急車呼ぶぐらいなら、こんなことしない。早く死になさいよ。」


 紬は、だんだん周りが見えなくなっていき、意識が遠のいていった。そして、玄関前の廊下は血でいっぱいとなった。


 それから隣人が警察に通報し、廊下に呆然と立ちつくす総務部の女性は警察が連行していった。あの刑事が、私を見ながら言った。


「また、あなたか。警察は、犯人を捕まえられるけど、死んだらしょうがないだろう。最大の防御は、恨まれないことだって言ったじゃないか。なんで分からないかな。まあ、もう遅いけど。」


 私の心臓は止まり、その体は、ブルーシートをかけられ運ばれていった。ただ、私は、部屋の中で浮いていた。


「そうだ、私、刺されたんだ。やめて、私の部屋に入らないで。どうして、気づいてくれないの?」


 部屋に入ってくる警察の人達を止めようとしたが、私の声や手は、入ってくる人達に届かなかった。


 そのマンションの前の道で、赤坂であった占い師の老婆がつぶやいた。


「だから、受難の相が出てるって言ったじゃないか。罰当たりなこと言わずに、私の占いを聞いていたら、あと5年の人生をプレゼントしたのに勿体無い。これだから今時の若者はダメなんじゃよ。」


 そう言って、暗い住宅地に老婆は消えていった。


 この部屋の中で殺人があったわけじゃないので、すぐに次の借り手が住み始めた。私は、総務部の子に切り付けられた後、ずっと、新たに住み始めた彼と一緒に暮らしている。


 とっても、素敵な彼なの。紳士で、いつも、心穏やかに誰にでも優しく接している。料理も得意で、私と子供ができたら、素敵なイクメンになってくれると思う。


 私、決めたわ。この人と付き合う。私も、顔には自信もあるし、性格もいいし、彼にとっても、良いと思う。彼も、とっても機嫌がいい。私がいるからよね。


 こんな素敵な彼だから、いろいろな女がハエのように寄ってくる。先日、ある女が付き合ってと言ってきたから、階段から突き飛ばしてやった。


 彼はずっと私のもの。私が守ってあげる。

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悪霊から私を助けて! 一宮 沙耶 @saya_love

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