第3話 ストーカー

 恐怖体験から3週間ぐらい経った時だった。飲んで家に帰った紬は、部屋で凍りついた。ブラウスをかけているハンガーのフックが、1つだけ、いつもとは逆になっていたから。


 いくら、急いで家を出る時があるとしても、私がこんなことをするはずがないわ。誰か、部屋に入ったの?


 窓とか、割れているところもなく、入るとしたら玄関のドアからだからと、次の朝、急いで鍵屋さんに来てもらって、鍵を交換した。鍵の交換をするまで、誰かが入ってくるんじゃないかと思い、一睡もできなかったので、鍵屋さんが鍵を交換した途端、疲れたのと安堵して、気づいたら、ベットで寝ていた。


 ベットから起きると、お昼の2時ごろで、私は、今晩のご飯を作るために買い物に出かけた。そして、部屋に戻り、手を洗おうとすると、いつも左に置いてある石鹸が右にあり、再び鳥肌がたった。朝はこうじゃなかった。鍵を交換したばかりなのに。


 そうだ。スペアーキーは管理人さんに渡してあったんだ。管理人さんが犯人かもしれない。


「管理人さん、今朝、鍵を交換したけど、また、誰か入った気がするんです。スペアキーは管理人さんに渡したけど、管理人さんが入ったんじゃないですよね。」

「何、言っているんですか。入るはずないじゃないですか。鍵を交換するとか、被害妄想が強いんじゃないですか?」

「そうじゃなくて。」


 管理人さんは相手にもしてくれなかった。でも、間違いなく、誰か入っている。でも、警察に相談してしても、気のせいじゃないかって、同じように相手にしてくれないかも。


 2日後にも、再び凍りつくことが起こった。ハンガーに吊り下げているスカートのファスナーが下がったままだった。私は、いつもファスナーはあげて吊している。こんな形でハンガーにかけたりはしない。明らかに、誰かが触っている。もしかしたら、また霊のせいかもと思い、結心さんに連絡をした。


 結心さんに調べてもらったが、まず、霊がファスナーを上げ下げできるとは思えないし、霊も見えないということだった。結心さんは、盗聴器の有無を調べる機械をカバンから出して調べ始めた。そうすると、ブザーがなって、盗聴器が見つかった。


「これは明らかに、人間の仕業ですよ。」

「こんなことって、あるんですね。気持ち悪い。部屋で話していたことが聞かれていたということですもんね。」

「そうなりますね。では、ここからは、ボディーガードサービスに引き継ぎますね。危ない時に、助けてくれます。危険もありますが、外とか積極的に歩いてみて、犯人を誘き寄せましょう。」

「お願いします。」


 翌日、私は、怖い気持ちを抑え、会社からの帰り道に人が少ない道を歩いていた。その時、急に、後ろに人の気配を感じた。しかし、振り返る余裕もなく、男性がナイフで切り付けてきた。


 ブラウスは切り裂け、背中は少しだけだが血で滲んでいる。いきなり襲われたことと、鈍く光るナイフの怖さで道路にしゃがみ込んでしまった。


 そして、彼は、正面から、紬のお腹を蹴ってきた。私の口からは血が出て、お腹も痛くて、何が起きているかよくわからないまま、顔を上げた。周りは真っ暗だけど、電灯でぼんやりと照らされた大学生ぐらいの男性の顔が見えた。


 知らない男性だったけど、物取りとか、強姦とかのようには見えず、目はつり上がり、紬のことをかなり恨んでいるように見える。しかも、目はつり上がっているけど、口はにやけて笑っていた。切り付けられるまで、全く気配を感じなかったので、頭の中は真っ白だった。そして、その男性は話し始めた。


「お前は、顔が可愛いことを餌にして、多くの男を騙してきたんだろう。皮の下は醜い豚だ。俺は、そんなお前に天誅を下すんだ。」

「なんのことなの。」

「何、とぼけているんだ。お前のせいで死んだ男もいるって知っているだろう。」

「もしいても、私のせいじゃない。」

「そうやって、自分を正当化するんだな。お前は、本当に醜いな。この世の中から消えてしまえばいいんだ。」


 その男性が、お腹を押さえている私の上に乗っかってきて、顎に手をかけ、顔を上げた。そして、にたっと笑うと、もう一回ナイフを振り落とそうと、手を上げた。その時、ボディーガードが駆け寄り、男性を押さえつけた。遅いじゃないの。


「なんで、こんな性悪な女を助けるんだ。お前も騙されているんだ。正気に戻れよ。」


 男性は、大騒ぎをしたが、プロには勝てず、両手を後ろで縛られ、ボディーガードが呼んだ警察に連行されていった。


 後日、私を襲った男が、付き合っていた人の弟さんで、お兄さんが自殺したのは私のせいだと思い、私の行動を調べて、あの場所で殺そうとしたと警察から聞かされた。


 部屋に盗聴器を仕掛け、どのような周期で外出したり、友人と会ったりしているのか、部屋では1人だけなのか、防犯グッズとか持っていないのかなど、周到に調べたらしい。


 そして、今夜、この暗い道を歩いて帰宅するのが夜8時ぐらいだとわかったので、そこで襲う計画を立てたらしい。


 捜査をしていた刑事からは、恨みを買う人も悪いんだし、その結果、直接、私が手を出したわけじゃないとしても、お兄さんは自殺したんだから、日頃から、人から恨みをかわないよう平穏に暮らすことと注意された。何を言っているの、私が悪いんじゃないのに。

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