第4話 恋人

 私は、外苑前の銀杏並木を、最近、付き合い始めた淳一と腕を組んで一緒に歩いていた。


「ねえ、淳一、一面、黄色になったこの道、大好き。今日は、夕日も綺麗で、なんか感動的よね。」

「綺麗だね。」

「淳一と一緒だから、一人の時よりももっと綺麗に見えるんだよ。わかってる?」

「嬉しいな。僕一人じゃ、こういう所には来ないから、紬と一緒にいろいろな所に行けて楽しいよ。」

「これから、一緒にいろいろな所に行こうよ。ちょっと足伸ばして、箱根の紅葉とか、札幌の雪まつりとかさ、淳一と一緒に行きたいところ、いっぱいある。楽しみ。」


 そう言って、私は、淳一の腕に頬を寄せた。


「今日は、赤坂のイタリアン予約しといたよ。そこって、雰囲気もいいし、ワインの種類もたくさんあるんだよ。楽しみ。」

「いつも、ありがとう。紬の選ぶお店はいつも間違いがない。」

「任せておいて。でも、淳一はいかにもアメフトやっているという体型だよね。筋肉とかすごいし。かっこいい。」

「学生の時は、そればっかりやっていたからね。脳みそも筋肉とか馬鹿にされていたけど。」

「そんなことないよ。日本トップの商社に入れたじゃない。淳一は、いっぱい素敵なところがあって、大好き。」


 私は、大勢の人が歩く銀杏並木の真ん中で、淳一の唇に自分の唇を重ねた。淳一も、私を包み込みこんでくれて、誰が見ても2人だけしか見えていない恋人だったと思う。


 赤坂のレストランに向かって路地を歩いていると、占い師から声を掛けられた。


「お前さん、受難の相が出てるよ。見てやるから、おいで。」

「いえ、ごめんなさい。私は、占いを信じていないから遠慮しておくわ。」

「占いを信じていないって。罰当たりだね。」


 翌日、会社からの帰り道で、交差点を渡ろうと信号を待っていると、私は、後ろから押されて車道に飛びだしてしまった。幸いにも、走ってきた車が避けたので、大事には至らなかったが、これまでの2件の事件を思い出し、恐怖を感じた。


 振り返ってみると、人はたくさんいたけど、知っている顔はなかった。どうして、私だけ、こんな事件に巻き込まれるんだろう。そんなに悪いことをしているわけじゃないのに。


 でも、今日のことを反省して、交差点とか電車のホームとかでは、先頭に立たないように注意することにした。でも、このような事件が度々起こった。


 例えば、地下にあるレストランに行こうと階段を降りていった時に、滑って落ちそうになった。押されたわけじゃなく、階段に食べ残した柿のようなものが落ちていて、それで滑ったみたい。また、隅田川の脇を歩いていたら野球のボールが飛んできて、もし当たったら怪我をするだけじゃなく、高い塀から隅田川に落ちていたと思う。


 いずれも、些細なことなんだけど、悪くすると大怪我をしそうなものばかりだった。


 ある日、会社のオフィスビルでエスカレーターで降りようとした時、いきなり、後ろから押された。突然のことだったので、押した人の顔は見えずに、上から下まで転げ落ちてしまった。


 意識はあったけど、怪我もかなりひどかったので病院に搬送された。ベットで寝ていると、見たことがある刑事がやってきた。


「また、あなたなんですか。今度は誰に恨まれたんですか。いい加減にしてくださいよ。」

「私は被害者なんですよ。そんな言い方ひどいじゃないですか。」

「で、心当たりはあるんですか?」

「いえ、全くないです。」

「そんなんだから、みんなから恨まれるんですよ。少しは、相手に悪いことしたなとか反省した方がいいですよ。」

「警察は、弱い人を助けるんですよね。」

「こちらも忙しいんですから、仕事を増やさないでください。」


 ひどい刑事と思ったけど、警察は、職場から事情聴取を始めた。思ったより、悪口は多くなかったと感じたようだったけど、2人の女性が容疑者として浮かび上がったと聞いた。

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