第5話  空手部と商品券



「たーのーもー!」


「もう、だから止めてってば!」


翌日

私は友人を連れて空手部の道場の前に立っていた。

左隣には昨日訪れた柔道部がある。


「たーのーもー!」


「おう、よくきてくれたな!」


ニコニコと笑顔で私達を出迎えてくれたのは、先日柔道部の部長と死闘を繰り広げたという空手部部長だった。・・・なにくっそでかいんだけど、魔物なの?


「ひょっとしたらこの学校に兄弟いる?」


「おお!よく知っているな」


「おいおい双子キャラかよ、属性てんこ盛りだろ」

そう隣から聞こえてきたけど、興味もないからスルーして中へと入った。 


すると何だか良い香りがしてきた

フローラルの香りだよ!


汗臭いのを覚悟して臨んだ道場は、以外にもフローラルの匂いで満ちていた。


眼の前に広がる道場には男子の姿はなかった。

「女子空手部?」





「いやー今時の子は、匂いに敏感じゃからな!」


「おいおっさん!」


「そんな訳で我空手部では道場に芳香スプレーを整備している!」


部長はそう言うと、道場の壁に設置された機械を示した。


これはよくエレベーターとかで見かけるやつだ。

時間が来ると自動で芳香剤がスプレーされるというやつ。


まあ、汗臭いのよりはいいんだけどね。



案内された道場では、20人ほどの空手部員が型の稽古をしていた。


「やっぱり全員女子じゃん!」


もはや定例な気がした私は、男子部員はいないんですかと尋ねた。


「うむ。実は訳あって今は男子はわししかおらんのじゃ」


「ひよっとしたら全員入院しているとか」


なんで知ってるのかと驚く部長を見て、ああうちの運動部ってそうなんだと私は納得した。


「ここに来てくれたということは入部してくれるんじゃな!がはは」 


はい、ガハハ頂戴しました。

「いや入んないよ。そんな暇ないし」

そうかあー残念じゃのう…としょんぼりする。

ねえどうするのって、こっちを見る夏木に私はどうしょうかと目で返す。

あまり時間を取られるのも困るし。


え、夏木って誰かって? 私の席の後ろに座っている女生徒に決まっているじゃない。


「何ブツブツいってるの」


なんでもないです。





「早速じゃが、華子には女子部員の稽古をつけてほしいんじゃ」



「えーでも、上級生の女子もいるじゃないですか。彼女たちでは駄目なんですか」


「そうそう!いるじゃないですか」

遅れて言う私。

「.........」

「.........」

夏木はじーっと私を見て目を細めた。

いやパクリじゃないから。ちゃんと考えているから。信じてプリーズ!


どう話せば良いか。

そう考えていた部長は部長は重い口を開いた。


「じつはこれには深い訳があるんじゃ・・」  


え、突然語りだしたよ!


もうお家帰ってもいい?


夏木に視線でそう問いかけると、顔を振って寄越す。

わかった。

とりあえず話を聞こう

しかし


「私たち目で会話出来るなんて!これはもう結婚するしかないね、痛いっ!」 



後頭部に衝撃を受け振り向くと、彼女がカバンにハリセンを仕舞うのが見えた。


「ねえそれみんな持っているけど、流行っているの。どこに行けば買えるの?」


そんな私たちのやり取りに構う事なく進んだ話は、クライマックスを迎えたようで、よく分からないけど拍手をした。内容は全く覚えてないけど。


そうしていつの間にか終わった話。我に返ると私の手には見覚えのある菓子箱があった。


こ、これは黄金色の菓子箱!


「どうじゃ、引き受けてくれるか!」


私は少し悩んでみせたあとゆっくりうなずいた。


「まあいいでしょう。困った人は見捨てられませんからね。ふふふ」   

まあ話は全く聞いてないけど!


たちまち女生徒達から歓声が聞こえてきた。

中には涙を流して喜んでいる姿も見られた。


私は少し感動して照れながらも彼女達に聞こえるように言った。


「挨拶が遅れましたが、私が明日からみなさんと稽古をする事になった華子です。任されたからには全力で頑張るので、よろしくお願いします!」


そう言いうと再びキャーという歓声が沸き上がった。


「こんなに喜んで貰えるなんて、引き受けてよかった。」


そうひとり感慨にふけっていたら、となりからあーあって声がした。


「わたし知らないよー」そう楽しそうに。


彼女の言葉に少し不安を覚え恐る恐る内容を尋ねた。

「柔道部みたいにダンジョンに引率して稽古つければいいんだよね?」と。 


そのパターンであっているはず。

わたしのゴーストもそう囁いてるし。


彼女は小声でやっぱり聞いてないとか呟いたけど、周りが騒がしくて私にはよく聞き取れなかった。


大丈夫なんとかなる。今はそんな瑣末なことより菓子だよ。

ひとしきり中にある図書券を数えていると、一人の女子生徒が近づいてきた。


「あの!明日からよろしくお願いします!」

「はい、頑張りましょうね!」


私がそう言うと、彼女は頬を赤らめながらお話しちゃったー!とか言って他の部員の所に戻って行った。


うーんこれは本当に頑張るしかないなー

気合を入れてるとぽんと肩を叩かれた。


「偉いよ。あたしもまさか二つ返事で劇を引き受けるとは思わなかったわ。」


ん・・・劇?・・・劇ってどういう事


ギギギと首を回して彼女を見ると、

私の事を眩しそうに見ていた。

なんだか嫌な予感がする


「まあ自分で決めたんだから、最後まで頑張りな!」

そう言って、私に冊子をよこした。


それはコピーを綴った冊子で、みんなもよく知っている「シンデレラ」の台本だった。

表紙の主役にはシンデレラ役のとこに手書きで(華子)と書かれていた。


「ではよろしく頼んだぞ!」

ガハハと笑いながら私の前を部長が去っていく。


な な な

「なんだとぉぉおおおおお!」


私はそう叫ぶと図書券を撒き散らしながら暗闇の中に堕ちていった。

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最底辺ダンジョン配信者は底辺のトップになってた 水都suito5656 @suito5656

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