第2話 もう恋なんてしないっ!②
「ん?誰かからメッセージ?もしかして、新しい彼女?」
「違うわ。高校の時の部活の先輩だよ。今ちょうどT大に行ってるんだけど、次の土日空いてるかー、って」
「あー、ちょうど学園祭かぁ。まぁ、俺は志望校の学園祭だとしても受かるまではいかないって決めてるからなぁ。パスで」
「何でお前まで行く前提なんだよ。」
土曜日なら空いてます、と手早く入力していると周りの学生たちが片付け始めているのが目の端に映る。気付けば時刻は午後の授業の開始まであと10分といった頃合いになあっていた。それに気づいた二人は無言で各々の食事をかき込むと、席を立った。
午後の二コマが終わると基本的に生徒たちはその日の拘束から解放される。”基本的に”というのは文字通りで、浪人生にはできる限り多くの努力を、一度経験した受験というものに打ち勝つための余念のない学習の時間を要することを、義務のようなものとされているから、同じ時間にたとえ高3生たちが駅前で駄弁っていようと、自習室にこもるのは常識のようなものであった。
「かとぅーは今日は自習室に残る?」
「いや、今日もやめとくわ。なんかそんな気分じゃないっていうか、今マジでモチベ無いから、自習室行っても寝そう。」
「そうか。まぁ、あまり引きずらないほうがいいぞ。明美ちゃんに言われたからって訳じゃないけど、一応俺らって浪人生だし、さ」
「わかってる。なんか、ごめんな。気ぃ遣わせちゃって。」
「おう。」
軽く手をあげて別れの合図をして、二人はそれぞれ自習室の受付と、予備校の正面口へと向かう。
加藤環は、少なくとも高校時代はモテる方だった。というか、学年では加藤と付き合った女子が勝ちとまで思われていた時期があったくらいだったのだ。しかしそれとは裏腹に環は女子への魅力の感じ方が普通とはかなりかけ離れていた。だからこそ、我こそはと立ち向かってくる女子たちはことごとく、残酷に、はかなく、彼の前に散っていったのだった。
「環は一体誰となら付き合うんだよ?滝沢さんまで振るとか、もうお前と付き合えるの、いわゆる美人女優くらいだろ」
「いやぁ、俺からしたらいわゆる美人女優?さんたちは、そこまで女性としての魅力を感じないんだよなぁ。なんていうか、包容力みたいなの?そういうのが足りないんだよ。」
「見た目で包容力が足りないってわかるもんなのか?そういうのってやっぱ話してみないとわからないんじゃ」
「ちっちっちっ。わかってないなぁ、ワトソン君。包容力っていうのはつまりは、女性らしい丸みとかそういうものじゃないか!」
「え?つまりはデブが好きなの?」
「うぐっ……!貴様、次は手が出るぞ。ぽっちゃりな人が好きなんだよ。ゆるっとふわっと、できるならそのきめ細やかな太ももに挟まらせてくれるくらいの包容力が欲しいんだよ!」
「あー、つまり、太ももフェチなん?だったら、この前告ってた、石野さんとか良くね?女バレの練習の時なんてギャラリーができるらしいけど。」
「だからわかってないと言ってるんだよなぁ。確かにあの張りは素晴らしいけど、もっと触ったときのプルプル感が欲しいんだよ。」
「え?お前、石野さんの太もも触ったん?」
「あぁ、触らせてもらったよ。」
「よく怒られなかったな。」
「むしろ喜んでたけど」
「おぅ、そうか……」
環の性癖が放課後の静かな教室で暴かれていくのをひそかに聞いていた一人の女子はそっと立ち上がって帰り支度をすると、気まずそうに教室を出た。
「……あ、流石に女子がいる前でこういうのはまずったかぁ。」
「確かにマズい、大道さんだったよなぁ、嫌われたらすこし凹むかも。」
「え、加藤環が告ってこなかった女子の名前を覚えている、だと……?」
「そりゃぁ、覚えるさ。大道菜音さん、彼女こそ最高に包容力があると言ってもいいからね。」
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