第13話 『実原ヤサシイEND』

「正解、おもろ」


 うぬぬ……やるなハズスちゃん!


 私はせいちんに膝枕をしてもらいながら、ハズスちゃんに頭をおっぱいで叩かれて上下するせいちんの顔を下から眺める。

 ※せいちんは私の心の中での正解の呼び名です。


 せいちんも迷惑そうな態度をとっているけど、頬は緩みっぱなしだよ!


 私は辺りを見渡し、テーブルの上に置いてあるノートパソコンに繋がったマウスを手に取り、胸に挟む。


「正解……クリックして」


「どこを――!?」


 せいちんが鼻息を荒くしながら私をガン見する。


 やった!成功だ!1ポイント獲得!


 私は毎日内緒で書いている秘密の日記にせいちんにアピールできたら『せいちんアピールポイント』を自分自身にあげている。勝手に100ポイント貯まったら結婚できると思ってるのだ!


 ちなみに今ので累計89ポイント貯まった!


 ……本当に結婚できるとは思っていないけど。


「……まったく」


 気月ヨイ、通称ヨイピーが呆れている。


 ヨイピーがせいちんと付き合った期間は『アピールポイント』が貯まらなかった。残念だけど、仕方がない。


 私がはじめて日記にポイントをつけたのは幼稚園の頃。せいちんは覚えてないだろうけど、近所の公園でよく遊ぶグループのリーダー的存在だったせいちんを私が勝手に好きになった。


 幼馴染みと言うほど親しくはないが、よく遊び、一緒にかくれんぼをした時など、同じところに隠れてよくドキドキした。なつかしいな。


 私がバカなことをしてせいちんの気を引こうとしていたら、そわそわしていたヨイピーが急に立ち上がる。


「ね、ねぇ!正解!一緒に出掛けない!?」


 ……ビックリした。


 ヨイピーの顔が強ばっていたから、告白でもするのかと思ったよ。ただのデートで、なんでそんなに緊張しているのだろう?


 私とハズスちゃんに気を遣っているのかな?


 せいちんは額に人差し指をつけて考える。


 私、せいちんのこのポーズが好き。


 このポーズをした後は、大抵、突拍子もないことを言う。それが、面白いぐらい物事がうまくいく。


 きっと、ものすごく考えているのだろうと勝手に推測する。


 私が告白したら、このポーズ取ってくれるかな?


 そんなことを考えていたら、せいちんの人差し指が額から離れ、せいちんが立ち上がり、なぜか強ばった顔のせいちんが重くなった口元をこじ開けるように声を出す。


「ヨイ……お前もか?」


 え?……どういうこと?


 ポカンとする私とハズスちゃん。


「正解……ごめん」


 ヨイピーが畳んであった制服から拳銃を取り出しせいちんに向ける。え!?ヨイピー?


 どういうこと?嘘だよね?


 ドダダダダ……!


 玄関の方から複数の足音が聞こえる!


「正解!逃げて!」


 ヨイピーが叫ぶ。


 え?


「みんな!ここから逃げろ!早く!」


 せいちんが寝室のドアを開けると、あらかじめ用意されていたかのように、窓に脱出用の布のトンネル、避難脱出シューターが設置されていた。


 え?ここ80階だよ?マジ?


「下まで降りたら走れ!」


 せいちんが叫ぶ。


 ドン!

 玄関がこじ開けられた音がした!


 「全問はどこだ?」「捕らえろ」などといった複数人の声が聞こえる。


「今までありがとう。お空の上で待ってます。にゃぁ――!!!!」


 ズザザザザ――!!


 遺書めいた言葉を発っしながらハズスちゃんが勢いよく飛び降りた。


 実際に見ると恐怖が増す。


「ヤサシイも早く!」


 私も意を決して脱出用シューターに足をかける。


「正解、生きてね」


 ちゅ。


 私は最期かもしれないと思い、せいちんにキスをしたあと、飛び降りた。


 ズザザザザ――!!


 すごい音と全身に火花が出ているかのような感覚。私は死を覚悟した。


 ズザァァ――!!


「……ぅぅ」


 ……地面?……生きてた。


「逃げなきゃ……」


 私はどこへというわけでなく、ひたすらに走った。ひたすらに……。


「分かれ道!どっちに行けば!?」


 私はせいちんの真似をしておでこに手を当てる。


 タッタッタ……。


「あ!鳥の糞!」


 髪の毛に鳥の糞が落ちた。


 やっぱり、せいちんのようにはいかないよぉ~


 タッタッタ……。


 タッタッタ……。


 どれだけ走ったのだろう?

 

 もう、足が動かない。


 私は見覚えのある公園を見つけ、かまくらの形をした遊具の中に隠れる。


 もう、足が動かない。


 しかし、あれは何だったのだろう?


 ヨイピーがせいちんに謝っていた。


 だとすると、せいちんの決して選択を間違えない能力を警察が利用しようとした?


 ヨイピーはスパイ?


 ……考えても答えはでないか。


 タッタッタ……。


 急に、私が隠れている遊具に足音が近づく!


 タッタッタ……。


 ヨイさん?それとも先生?


 私の心臓の鼓動がうるさい。


「やっぱり、ここにいたか」


 顔を出したのは……せいちんだった。


「正解……」


 せいちんは私と並んで座る。


「ヨイは公安だった」


 公安?よくわからないけど、限られた人しかなれない警察の特別組織。


 やっぱり、先生の力を狙って……。


「私、よくわからないけど、ヨイピーは正解のこと、好きだと思うよ」


「え?……ははっ。そうだな」


 ……?笑われた。


 ヨイピーが裏切ったみたいな感じになってるけど、たぶん、そうじゃない。


 最後、「逃げて」って言ったのも、本当はせいちんと一緒にいたかったけど仕方なく……。


「昔、よくここで二人で隠れたな」


「ふぇ?」


 突然のせいちんが呟き、驚いて変な声が出た。


 え!せ、せいちん……覚えてたの!?


「せいちん……あっ!」


 思わず、昔の呼び方で読んでしまい、ハッとする。


「その呼び方……なつかしいな」


 ……そう、小さい時の私はずっと、「せいちん!せいちん!」と叫びながら追いかけていた。


 ……本当に、覚えてくれてたんだ。


「……いつから、気づいてたの?前に付き合ってた時は気づいてた?」


「あ、いや……」


 せいちんが困った顔をする。


 前に付き合ってた時は気づかなかったのかな……。


 そりゃ、こんなギャルの姿じゃ気づかないよね。


 せいちんがヨイピーに振られたあと、気軽に付き合えるかなと、急いでギャルを真似て、喋り方を変えた。


 落ち込んでいたせいちんを慰めるために。


「あ、あの……気づいてた。その……え、エッチした時……せいちんって聞こえて……あの時の娘だって……」


 …………。


 ……え!?


 わ、私……無意識に名前言ってたの?


 恥ずかし―――――!!


 急に恥ずかしくなって顔が熱を帯び、真っ赤になる。


「い……言ってよぉ~」


 急に肩の力が抜ける。


 もっと早く昔からの想いを伝えればよかった。


 私はせいちんを慰めるために付き合ってただけ。


 だから、せいちんが仕事で成功して自信を取り戻した時、もう大丈夫かなと思い、自ら身を引いた。


 もちろん、そのまま付き合いたかったけど、なんかフェアーじゃない気がしたの。


 でも、せいちんは昔の私と気づいてくれた。


 ヨイピーに出会うより、ずっと前から、私は……。


「せいちん……好きだよ」


 せいちんが驚いた顔でこちらを向く。


「私も……君を選んだ」


「せい……ちん」


 涙が溢れた。


 『選ぶ』と言う言葉。


 それは、せいちんとっても、私にとっても、特別な言葉。


 私はせいちんに抱きつき、わんわん泣いた。


 せいちんは私が泣き止むのをずっと抱きしめながら待っていてくれた。


 日が沈む頃、私達は遊具を出た。


「これから、どうするの?」


 泣きすぎて腫れた目をせいちんに見られないように隠しながら問う。


「……そうだな」


 せいちんは額に人差し指を当てる。


「ふふ、それ、絶対に間違えないポーズだ」


 せいちんは私を見て笑う。


「当たり前だ。私は決して選択を間違えない!名探偵、全問正解だ!!」


 せいちんは私の手を引き駆け出した。


 せいちんの顔は自信に満ち、私の顔は幸せに満ちていた。


 帰ったら日記を書かなきゃ!


 キスで1ポイント、告白で10ポイント。


 100ポイント貯まったよ!せいちん!


 私を選んでくれて……ありがとう。


 【おしまい】


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