第9話 『温泉と魔法少女』

――――<キュルルル……(世界が巻き戻る)>―――――


D 温泉!混浴もあるし!絶対、温泉!本館『朱雀』に決めた!


「本館『朱雀』にします」


「かしこまりました。こちらへどうぞ」


 若女将が『雅』と書かれた部屋へと案内をしてくれる。


 さすが有名な建築家が建てたようで、見事な景色を望むバルコニーつきだ。さらにヒノキが薫る客室バスタブ、大理石のカウンター、やわらかな畳など、自然素材がアクセントになっている。


「混浴大露天風呂はすぐ隣です」


 若女将はそういうと、部屋を後にした。


「よし!部屋のお風呂も気になるけど、まずは露天風呂に行きましょう!さっき、館内の案内板を見たらここはの温泉は塩化物泉よ!溶存物質が1,000mg/kg以上でなめてみると塩辛いけど、塩分が肌に付着して、汗の蒸発を防いで……まぁ、要するに美肌効果抜群よ!!」


「美肌!!よし行くっきゃないでしょ!」


 温泉マニアのヨイの説明に賛同するヤサシイ。


 すぐにでも温泉に飛び込む勢いだ。


「ぼ、ボクは用事がありますので!」


 リョーマが慌てて部屋を出る。


「なんだ?混浴と聞いて、恥ずかしくなったのかな?」


 私は部屋を出るリョーマを見送る。


「そうですかね?心配なので、私、探して来ます。先生達は先に露天風呂を堪能してください」


 助手のハズス君は部屋の襖を開け、私に「堪能するのは温泉だけですよ」と余計な一言を言ってからリョーマを追った。


「仕方ないわね。三人で入りましょう」


 待ちきれないと言ったヨイの言葉で、私達は露天風呂へと向かった。


 露天風呂は本当に部屋のすぐ隣だった。


 脱衣所こそ男女別れていたが、中は繋がっており、私が体を洗って湯船に浸かっていると、バスタオルを巻いたヨイとヤサシイが入ってくる。


「この温泉、湯船までバスタオル巻いてOKらしいわよ」


 ヨイの言葉に私は心の中で「くそぉ――!!」と叫ぶ。


 体を洗う二人を岩の陰に隠れて覗かない紳士な私は、二人がバスタオルを巻いて湯船に入ってくるのをジッと待つ。


「覗かないんだ。案外、紳士じゃん」


 バスタオルを巻いたまま湯船に入るヨイが私をからかう。


「当たり前だ。だいたい私は漫画や小説の温泉シーンが嫌いなのだ。作者の「温泉シーン入れとけば読者は喜ぶっしょ!」みたいな安直な考えが気に食わん。しかも、バスタオル巻いたまま何も見えないし、良くて女の子同士、胸を揉み合うのを聞くだけだし……私は、直に揉みたいのだ!」


 私の力説にヨイがあからさまに引いた顔を見せる。


「うわぁ~、ひねくれてるわね~」


「正解が好きなのは……こういうのでしょ?」


 バスタオルを巻いたまま歩いてきたヤサシイは、私の前で後ろを向き、バスタオルを広げて見せる!


「うひょ――!!そう!それだ!バスタオルから少しだけ出るお尻!夕日に照らされバスタオルから透けて見えるおっぱい!完璧だ!」


「バカ言ってんじゃないわよ!」


 バシャッ!


 ヨイが私にお湯をかける。


 ガラガラ――!!


「ぼ、ボクは温泉は……やめて~!」


 私達が温泉でふざけているとガラス戸が開き、バスタオルを巻いたハズス君に服を脱がされたリョーマが引きずられながら入ってきた。


「ほらほら、恥ずかしがらないの。みんなで入ったほうが楽しいの……よっ!」


 ハズス君がリョーマを温泉へ投げ入れる。


 バシャ~ン!!


「こらこら!温泉へは体を洗ってから……ええ!?」


 ハズスを注意しようとしたら、リョーマの体から煙が立ち上げ、犬とも猫とも見える可愛らしい肌色の動物に変わった。


「え?何?何?かわいいんだけど!」


 ヤサシイがリョーマ(?)を抱き抱える。


「え?リョーマ君……なの?」


 ヨイもリョーマ(?)のフサフサの毛をさすりながら優しい顔を見せる。……正直、悔しい。


「やめて!ボクはお湯に浸かると変化しちゃうんだ!」


 ヤサシイの腕の中で暴れるリョーマ。


「喋った!やっぱりリョーマ君だ!」


 ハズスもバシャバシャ音を立てながら温泉に入る。だから、体を洗ってから入りなさい。


「離して~」


 バタバタと暴れるリョーマ。


 ……ん?その後ろの温泉のお湯が盛り上がり、キレイなお姉さんの形に変わっていく。


 お湯で出来たキレイなお姉さんの指が鋭く尖って、彼女達に向かって……!?


「危ない!」


 私は彼女達三人のおっぱいを器用に揉みながら攻撃を避ける。


「あら、避けられた。ジューベエもろとも殺しそこねたわ。うふふ……」


 お湯で出来たキレイなお姉さんは不敵に笑った。


「くっ!常闇の魔女か!みなさん、話は後です。このペンダントを掲げ、魔法少女に変身してください」


 ……なんだって!?


 ジューベエと呼ばれたリョーマは彼女達三人に宝石の入ったペンダントを渡す。


「もう!わけがわからないけど、やるしかないようね!」


 気月ヨイは宝石の入ったペンダントを掲げる。


「バスタオルオープン!」


 気月ヨイに巻かれたバスタオルが光とともにはだけ、マントのような形になって肩につく。


 同時に投げられた宝石から無数の黄色い光がヨイを包み、胸、手首、腰、足首に巻き付き衣装を型どる。


 最後に宝石がサテン生地のショーツに変わり、ヨイがそれを履く。


「温泉魔法少女トパーズ・ヨイ!私に見とれて……のぼせないでね!」


 ポーズを決めて変身が完了した。


『バスタオルオープン!』


 ヤサシイ、ハズス君も続いて変身。


 ヤサシイは赤色、ハズス君は青色の宝石の光が二人を包み込む。


 最後にサテン生地のショーツとなった宝石を履く。……最後だけ、なんで現実的なんだ?


「温泉魔法少女ルビー・ヤサシイ!火照る体に熱き魂!そんなに見つめちゃ火傷しちゃうわよ!」


「温泉魔法少女サファイア・ハズス!あなたの癒しに私はなる!先生……おっぱい触ります?」


 彼女達三人は揃ってポーズを決める。


『我ら温泉魔法少女隊、ジュエリー・コレクトアンサー!』


「はっ!口が勝手に恥ずかしいことを……!?」


 ヨイが恥ずかしさの余り顔を隠す。


「やはり、彼女達には魔法少女の素質があったか……」


 犬のような猫のような動物、リョーマ(?)が呟く。


「リョーマ……お前はいったい……」


 私はリョーマ(?)を問い詰める。


「ボクは未来からやってきた時を操る幻獣ジューベエ。未来は常闇の魔女によって滅ぼされた。ボクは地球を救う魔法少女を求めてここへ来たんだ!」


 ……よし、信じよう!


 現に彼女達は変身しちゃったし!


 魔法少女の衣装、エッチだし!


「なりたての魔法少女に何が出来る!?くらえ!未来温暖化問題!(ミライノチキュウハチョットアツイゾ)」


 常闇の魔女が叫びながらお湯の中に消えた。


「熱っ!」


 急にお湯の温度が上がり、私は慌ててお湯から出る。


「くっ!動けない!」


 彼女達三人は常闇の魔女に足を拘束されて動けないようだ。


「まずい!魔法少女の衣装は80度までしか耐えられない!」


 ジューベエ(リョーマ)が叫ぶ。


 その言葉の通り、彼女達の服が徐々に溶け始める。


「きゃ――!!」


「熱い……」


「先……生……助けて」

 

 彼女達の助けに、私は選択肢を選ぶことも忘れ、お湯に飛び込んだ!


「待て!もうお湯の温度は70度を超えている!生身の体では……」


 バサァ――!!


 私の体は、火事場のバカ力で拘束を破った彼女達のマントのおかげでお湯に浸かることはなかった。


「正解をこんな目に合わせて……許さない」


 ヨイは私を抱き締める。


「あら?死ななかったの?しぶといわね」


 再びお湯が集まり、常闇の魔女を型どる。


「死刑確定っしょ」


 ヤサシイが指をポキポキ鳴らす。


「私、怒ったんだから!」


 いつも笑顔のハズスも声を荒げる。


「みんな!宝石ショーツを合わせるんだ!」


 ジューベエ(リョーマ(?))が卑猥な事を言った。


 彼女達はその場でショーツを脱ぎ、重ねる。


 すると、三枚のショーツはバズーカーのような形に変化し、コォォォ……と凄まじいエネルギーであろう力がバズーカーの中でうねりを上げる。


「ま、待てお前ら!私が悪かった!待て!」


 あからさまに慌てる常闇の魔女。


「待てるか!いっけ――!!高出力光量子レーザー『ハウホットイズザウォーター』!!」


 ドゴォォ――ン!!


「ギャァ――!!」


 常闇の魔女は光に包まれながら消え去った!


「やったぁ――!!」


 ヤサシイがガッツポーズを決める!


「ちょっと!マントが……」


 ヨイが叫ぶ。ヤサシイがガッツポーズを決めて、私を包むマントがずれたのだ。


「……あ」


 バシャ~ン!!


 私はそのまま70度以上に熱せられたお湯へとダイブした……。


「先生――!!……ゴニョゴニョ」


「大変!……ゴニョゴニョ」


「ここに寝かせて!……ゴニョゴニョ」


「……ゴニョゴニョ。私が治します!」


「あん!先生!……責任取って……くださいね」


 ところどころ断片的に聞こえる声。


 やがて私は、眩しさに耐えれず、少しずつ目を開けて光を受け入れた。


「ハッ!……ゆ、夢?びっくりした~」


 私はひどく寝汗をかきながら飛び起きた。


 なにやら、イヤらしい夢を見たような……。


「ん~?どうしたんですか?先生~」


 隣には……裸のハズス君が眠い目を擦りながら話してきた。


 辺りを見渡す。


 旅館らしき部屋の一室。


 布団がひとつ。


 脱ぎ散らかした服。


 裸の女子高生……。


「ま……マジ?」


 私は裸を隠そうとしないハズス君に驚きの表情をして見せる。


「え?温泉で火傷して、魔法少女の力で治した優しい私に手を出したことですか?……マジですよ」


 マジだった。


 未成年ではないにせよ、女子高生に手を出してしまって、ひどく落ち込む私に、やれやれといった表情でハズス君が言った。


「先生……今時、女子高生だってやることやりますよ。それとも、先生は私を観賞用でそばに置いていたのですか?綺麗に盛り付けられたお寿司だって、食べなきゃもったいないですよ」


「……確かに。いや……でも……」


 私はハズス君に論破され、ひどく納得した。


 確かにそうだ!鮮度のいい時に食べなきゃお寿司がもったいない!お寿司に失礼だ!


 それに、私は選択肢を外したことがない!


「……アワビのおかわりをお願いしたいのだが」


「もう、何回するんですか。これでおあいそですよ……先生」


 ハズス君は嬉しそうに私に抱きついた。


 ……つづく。


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