第10話 『三竦みの攻略』
「ただいま~」
私達は旅行から帰り、久しぶりの事務所兼我が家に帰ってきた。
「ただいま~。ね、あ・な・た」
女子高生で探偵見習いの解答ハズスが帰りの道中ずっと私に腕組みをしたまま離れない。
「ハズスちゃん積極的~。私も負けてらんないっしょ」
もう片方の腕を元カノ実原ヤサシイ(ギャル)がぶんどる。
「はぁ~。あなた自分から選択肢を増やしてどうするわけ?しかも、女子高生って……」
大きなため息を私に聞こえるようにつく元カノ気月ヨイ(警察官)。
私は旅行中に介抱してくれたハズス君に無意識に手を出してしまい、いわゆる既成事実というものを作ってしまったのだ。
「この写真立て……ご両親ですか?仲が良さそう。私達みたい」
腕を組みながらハズス君が玄関に飾ってある写真を指差す。
「ああ……それね」
私は両親の写真を玄関に飾るのは恥ずかしいかなと、照れ隠しで額を人差し指で掻くと、ふいに頭の中に選択肢が浮かんだ。
私は写真を見ながら言った……。
A 父だよ。
B 母だよ。
―――――――――――――――――――――――――
A 父だよ。
「父だよ。実は昨年の12月に父は体調を崩してしまってね……。そのまま一週間で亡くなってしまったんだ。父がなくなる直前に見ていたテレビに、この建物が映っていてね。「あ~、こんなタワーマンションに住んで見たかったな」って……。それで、父が亡くなってから私はここを借りたのさ」
私は物思いにふける。
「先生……そうだったんですか」
しまった。ハズス君が悲しい顔をしてしまった。
「そういえば、リョーマ君は?」
私は暗い話の話題を変えようと、姿の見えないリョーマを探す。
「なんでも、「とても迷惑をかけてしまったのでしばらく旅に出ます」って言って、どっか行っちゃった!」
元カノ実原ヤサシイ(ギャル)が呆気からんと言う。
迷惑か……。彼も謎の組織に追われて大変だろうに……あれ?何の組織に追われてるんだだっけ?
「まさかリョーマ君が伝説のスパイ『逢魔が時の鶯』だとわね……」
「あれ?そうだっけ?」
そんなんだっけ?三分だけ巨大な犬になれる『ウルトラマンハチ公』じゃなかったっけ?
「そんなことより、お腹空いた!ウーパー取ろ!ウーパー!」
ヤサシイのお腹が分かりやすく『ぐぅ~』と鳴る。
ウーパールーバーは宅配業者の略称である。
「あ、ごめん。私は明日、早番なんだ。一旦、家に帰って準備するわ。正解も来る?」
「え……?」
わ、私は……。
C 気月ヨイの部屋に行く。
E このまま残る。
――――――――――――――――――――――――――
C 気月ヨイの部屋に行く。
「ただいま~」
ヨイは誰もいない部屋に向かって言う。彼女の習慣なのだろう。
「……お邪魔します」
私も彼女の部屋へ足を踏み入れる。
「……本当に来るとは思わなかったわ」
彼女は照れているような、嫌みを言っているような、呆れているような、なんとも言えない表情を私に見せる。
「ああ……荷物持ちくらい、するよ」
私は差し支えない受け答えをする。
それにしても、この部屋は……。
部屋に着く前に気づいたが……前に二人で同棲していた部屋だ。
「驚いたでしょ?私が振られて出ていったあと、あなたも部屋を今の事務所に引っ越したでしょ。私……また、ここに戻ってきちゃったの。はは……怖いよね」
「あはは……」とバツが悪そうに苦笑いをする。
「いや、嬉しいよ。もう、大事なものは失いたくないし」
真面目な顔をヨイに見せる。
私との別れを、とても引きずっていたのだろう。
申し訳ない気持ちで、いっぱいになる。
申し訳ない気持ち……あ、あれ?
「今、「私が振られて」って言わなかった?振った覚えないよ?ヨイが出ていったから、私は振られたものだとばかり……」
「え?だって、あなた「ヨイを選べない」って言ったじゃない」
彼女が過去を思い出し、涙目になる。
「あれは、結婚の選択肢がまだ出てなくて……選べなかっただけだよ」
あの時、結婚の話を持ち出したヨイに、私は人差し指を額につけたが選択肢は現れなかった。
「そう……なの。私を選んでとは言わないけど……もう、あの時のような、悲しみは味わいたくないな」
私の胸に額をつけて涙する。悲しみの涙は嬉し涙に変わったようだ。
「ヨイ……」
私は数多の選択肢から正解だけを導く。
もう、大事なものは決して失わない。
それが、私!名探偵、全問正解だ!!
「お風呂一緒に入る?久しぶりにやったげよっか?おっぱい洗い」
ヨイはしんみりした空気を変えようと、あえてふざけた口調で言い、自慢のおっぱいを両手で掴んで上下に揺らす。
私もできる限りの元気な声でヨイの優しさに答えた。
「お願い……しちゃおっかな!!」
私は選択肢を……外さない!!
――<キュルル……(時間が巻き戻る)>――
B 母だよ。
「母だよ。」
ピンポーン。
すぐに玄関のインターホンが鳴る。
「お邪魔しま~す。あとを追ってみたら、やっぱり正解ちゃん!いつの間にこんな美女ばかり集めて!」
玄関の扉を開けると、そこには母の姿があった。
「母さん!」
「え!?正解の……お母様?」
ヨイが身だしなみを整える。
「お母さん?めっちゃ美人!!」
「あら~、この娘が彼女さん?」
すぐに気に入られるヤサシイ。距離感がおかしいのですぐに仲良くなれるギャル特有のスキルである。
「はぁ……はぁ……母さん、急に走らないでよ……」
遅れてやってきたのは……父だった。
「父さん……生きてたの?」
私は父親に失礼な言葉を投げかける。
「し、失礼な!わしゃピンピンしておるぞ!」
元気な父親を見て、なぜか涙が流れる。久しぶり会ったからかな?
「それにしても、急だね。また東京観光?」
「そうそう、たまたま正解ちゃんのタワマン見かけたから、走って来ちゃったの。そろそろバスツアーの集合時間だから行くわね!」
母は足早に去って行った。
「待ってよ!母さん~」
それを追う父。なぜか父の背中を見ると涙が出る。私も、もう歳かな。
「じゃ、私は一旦、部屋に帰るわ」
ヨイも去って行った。
明日から仕事。いろいろと準備することがあるのだろう。
「ありゃ、ウーパー頼もうと思ったのに。買いに行ったほうが早いかな?正解、行こ!」
ヤサシイが私の手を取る。
私は困った顔をしながら額に人差し指を当てた。
D 実原ヤサシイと出かける。
E ここまま残る。
―――――――――――――――――――――――――――
D 実原ヤサシイと出かける。
「やっぱマクモスっしょ!」
私とヤサシイは有名ハンバーガーチェーンのマックモスバーガーを買い、家路を歩いていた。
「あ、公園あるじゃん!私、超お腹空いたから、ポテトだけ食べちゃおっと!行こ!」
ヤサシイは私の手を引き、公園の中へ強引に連れ込む。
あと少しで私の事務所なのに。相変わらず思ったことを思った時にやるギャルの思考は理解ができない。
「お、おい……」
どんどん公園の奥へ進むヤサシイ。
心なしか私を引く手が赤みを帯びているように見えるが……夕日のせいかな?
そして、誰もいなさそうな木の影に隠れ、私の前で両膝をつき、口を大きく開け、上目遣いで、こう、言った。
「ねぇ、正解……ちょうだい?」
え!?何を!?ポテト!?ポテトだよね!?
こんな、誰もいない公園の茂みの中で。
そんなにポテトが食べたかったんだね。
私もお腹が空いたな!一緒に食べよう!
私は選択肢を間違えない!
私は数多の選択肢から正解だけを導く。
もう、大事なものは決して失わない。
それが、私!名探偵、全問正解だ!!
「そう……こっちの大きいほう……モゴモゴ……正解よ……んっ……」
私は選択肢を……外さない!!
――<キュルル……(時間が巻き戻る)>――
E このまま残る。
「私は無性にマクモス食べたくなっちゃった!買ってくるね!」
ヤサシイが唐突に玄関から飛び出した。
「ちゅ」
すぐさまハズス君が私にキスをする。
「わっ!」
私はびっくりして後ろへ飛び退く。
「あら先生。そんな反応だと傷つきますわ。先生の選択肢は『A ヤサシイさんが帰って来るまで私を台所で抱く』『B ヤサシイさんが帰って来るまで私をベットで抱く』『C ヤサシイさんが帰って来るまで私をソファーで抱く』の三択ですよ。どうしますか?」
ハズス君はセーラー服を脱ぎながら三本指を立てて私に迫ってくる。
私は数多の選択肢から正解だけを導く。
もう、大事なものは決して失わない。
それが、私!名探偵、全問正解だ!!
「では……A、C、Bの順番でお願いします」
「先生の……エッチ」
もう一度言おう!
私は数多の選択肢から正解だけを導く。
もう、大事なものは決して失わない。
それが、私!名探偵、全問正解だ!!
「せ、先生!少し休ませて!……お風呂場の選択肢『D』は入っていませんぅぅ~はぁ――ん!!」
私を選択肢を……外さない!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます