第7話 『あやかしピエロ』
私、
私には人には言えない秘密がある。
それは、数ある選択肢において、私が選んだ選択は必ず正解するのだ。
そんな私に実原ヤサシイ(ギャル)は究極の質問をぶつけてきた。
「ぶっちゃけ、正解って大きいおっぱいと小さいおっぱい、どっちが好きなん?」
私の頭の中に選択肢が……浮かぶ必要などない!
「そんなの決まってる!『どっちも』だ!世の女性はみんな男は巨乳好きだと勘違いしている!違う!どっちも好きだ!巨乳は揺れるから、つい見ちゃうだけだ!例えば『焼肉』と『寿司』どっちが好きだ?もちろん両方だ!焼肉も食べたい時もある!寿司も食べたい時もある!私は……どっちも食べたい!」
力説して握った拳をヤサシイは自分のおっぱいに
「私だけ食べてほしいな」
くぅ――――!!いただきま~す!
パカ――ン!!
「あんたは痴漢常習犯か!」
助手席に座っていた気月ヨイ(警察官)がなぜか持っていたハリセンで私の頭を叩く。
私達、全問正解探偵事務所の面々は先の事件で事務所の割れた窓ガラスの修理に、一週間かかることが判明。新メンバーのホームズ・リョーマとともに早めの夏休みを取り、車で海に出かけていた。
「リョーマ君は、やっぱりおっぱいは大きいほうが好き?」
見た目は子供だが、何かしらの組織に追われているリョーマは解答ハズス(女子高生)の問いに素直に答える。
「ボクは『お尻派』です」
な……なに!?大きいおっぱいと小さいおっぱいのどちらが好きか聞かれて、答えが『お尻派』だと?
なんて誰も傷つけない模範的な解答なんだ……。「両方大好き!」なんて答えた私がバカみたいじゃないか!本当に子供なのか?見習いたくなる……。
「しかし、自動運転って便利よね。目的地を登録するだけで着いちゃうんだもん」
助手席のヨイが
「もちろん、自分で運転もできるぞ!これがおもしろいんだ!」
私はそう言うと運転席へと席を移動し、自動運転から手動運転へと切り換えを行う。
『次の信号を右に曲がってください』
カーナビが喋る。
「これをわざと左に曲がるとだな……」
私はハンドルを左に切って、交差点を左折する。
『なんでやねん!ルートを変更します。次の信号を右に曲がってください』
「すごい!カーナビがツッコミを入れた!」
驚くヤサシイに私は得意気になる。
「だろぉ?このカーナビ、関西弁バージョンなんだ」
そう言いながら、またもカーナビの指示を無視して車を左折する。
『どないなっとんねん!もう、やってられんわ!』
『あははは――!!』
車内は笑い声に包まれた。
やはり、関西弁カーナビにしてよかった。
私は、道は間違えても人生の選択肢は間違えない!
名探偵、全問……。
「正解先生、ここはどこですか?」
心の中で決め台詞を言っていた私をハズス君が遮る。
「……おや?」
辺りを見渡すと、いつの間にか生い茂る木々に囲まれ、古びた看板の『標高2000m』の文字を発見する。
「えっと……海はやめて……温泉、入ろうかな?」
「温泉!?いいわね!私、温泉の効能マニアなの!」
私の苦し紛れの言い訳にヨイが思いの外、賛同してくれた。
「効能マニアって、おばさんね~」
「なんですって――!!」
また、元カノ同士で争っているが、私は温泉旅館と書かれた看板の方へ車を向かわせた。
ともあれ、やはり、私は外さない!
名探偵……全問正解!
「到着で~す」
車を止め、荷物を持ち、宿の前に並び立つ。
「こ、ここは……」
その宿はいかにも事件が起こりそうな宿だった。
額に人差し指を当てて、私が選んだ宿は……。
A 卍型の建物にピエロが描かれた……『卍館ピエロ』
B 建物の真ん中に時計台がそびえ立ち、四聖獣の銅像が立つ館……『和時計塔と本館『朱雀』別館『玄武』⇒第8話へ
―――――――――――――――――――――――――――――――
A 『卍館ピエロ』だ!
玄関に入ると、薄暗い雰囲気の玄関は、まるでおばけ屋敷のようなおどろおどろしい雰囲気で数体のピエロの人形が天井から吊り下げられていた。
「この館は……」
謎の小学生リョーマが呟く。
「正解……私、怖い」
実原ヤサシイが私の右腕に自慢の胸をくっつけてきた。もう、これだけで私のした選択が間違いでないことが証明される。
「もう、あなたはすぐにくっつく!」
負けじと気月ヨイも残った左腕に抱きつく。
「少々、凝った作りの宿のようだね」
私の全神経はおっぱいが当たっている両腕に集中しているが、それがバレないよう辺りを見渡す。
それにしても、受付も何もない。ここは、本当に旅館なのか?
「やん!先生ったら……ついに私の魅力に気づいちゃいましたか……そうなんです。私は巨乳自慢だと思われがちなのですが、実はお尻に自信が……」
「ハズス君、ひとりで何をぶつぶつ言っているのかね?」
急に巨乳女子高生探偵見習いの解答ハズスがお尻をおさえて私を見る。
こらこら、私は両腕を幸せのマシュマロに挟まれているんだから、手は出せないぞ。
「え!?じゃあ、この手は……」
ハズス君が振り向くと暗闇にピエロの顔が浮かんでいた。
「きゃぁ――!!」
「六根清浄急急如律令!ハァ――!!」
リョーマが
「ぐわぁぁ――!!きさまぁ――!!」
ピエロは炎に包まれながら消え去った。
その後ろから、サーカスの団長のような男が姿を見せた。
「ホームズ・リョーマ。自分から我が館へ出向いたからには『秘伝の形代』を渡す気になったのか?」
「お前はムッシュ・シャッポ!やはり、ここは貴様の……」
おお!全然、ついていけない!
私はホームズ・リョーマに説明を求めた。
「リョーマ君……これは、いったい?」
「黙っていてすいません。僕は陰陽師一族の末裔。ここは私を追う組織『安倍晴明、友の会』が経営する館なのです」
「あれ?リョーマ君を追う組織って、そんなんだっけ?」
ハズスがリョーマに問う。
そうそう、もっとこう……謎の組織というか……あれ?怪しい術?魔法を使ったっけ?……なぜか、あまり覚えていない。
「え?最初からそうですが……」
リョーマ君が言うのなら、そうなのだろう。
ズバババ!!
「くっ!!」
数体の飛んできたピエロを寸前のところで避けるリョーマ。
「よく避けましたねリョーマ」
「くっ!傀儡師バイオレット!きさま、死んだはずでは!」
「クックックッ……この通り、体をすべてマリオネットにして復活してのだ!貴様の息の根を止めるためになぁ!!」
激しい展開の蚊帳の外にいる私はムッシュ・シャッポに話しかけた。
「あの……ここって温泉ある?」
「ん?温泉ですか?もちろん、ありますとも!うちの温泉は珍しい炭酸水素塩泉ですよ!」
温泉マニアのヨイが食いつく。
「本当!?炭酸水素塩泉は入浴後の清涼感が特徴よ。アルカリ性で角質を軟かくし、肌が滑らかになるし、切り傷、末梢循環障害、冷え症、皮膚乾燥症など様々な効果が期待できるわ!」
「じゃ、ここはリョーマ君に任せて私達は温泉に入って待ってようか。居ても、邪魔だし」
「そうですか。ちょうど今は混浴できる時間帯です。おくつろぎください」
私達はムッシュ・シャッポの案内で温泉で待つことにした。
「じゃ、リョーマ君頑張ってね~」
ヤサシイがリョーマに手を振る。
「は、はい!がんばり……ぐっ!やるなバイオレット!!六根清浄急急如律令!オリャ――!!」
スガァ――ン!!
死闘を繰り広げるリョーマを横目に私達は温泉へ向かった。
【温泉】
「先生~こんな美女三人に囲まれながら温泉に入れて、幸せですね~」
温泉に入って少しのぼせたのか、ハズスは岩に座りながら私に話しかける。三人ともバスタオルを巻いているが、水に濡れてその抜群のスタイルは見るものを虜にする。
「そうだな。だが、私は漫画や小説でよくある温泉シーンが嫌いでな。なんか作者の「温泉シーンあれば読者喜ぶっしょ!」みたいな安易な考えが好きではない。大概、バスタオル巻いて見えないし。女の子同士で胸を揉み合うのを聞いてドキドキするだけだしな。私は……直に揉みたいのだ!」
私は力説した。
「正解が好きなのは……こうでしょ?」
ギャルのヤサシイは立ち上がり、私にお尻を向けた状態でバスタオルを開く。
「そ、そう!それだ!見えそうで見えない!光の加減で少し見える!完璧だ!」
「見るな!バカ!」
警察官のヨイが後ろから私の目を両手で押さえる。背中に当たるおっぱいに意識を全部持っていかれる。
「秘技!おっぱいアタック!」
私は暗闇の中、ヤサシイの声を聞いたあと、顔に柔らかいものが押しつけられる感触に酔いしれた。
元カノ同士、何やら言い合いをしていたようだが、私の意識は薄らいだ……。
「先生?先生がのぼせた!……ゴニョゴニョ」
「大変!……ゴニョゴニョ」
「ここに寝かせて!……ゴニョゴニョ」
「……ゴニョゴニョ。私が看病します!」
「あん!先生!……責任取って……くださいね」
ところどころ断片的に聞こえる声。
やがて私は、眩しさに耐えれず、少しずつ目を開けて光を受け入れた。
「ハッ!……ゆ、夢?ビックリした~」
私はひどく寝汗をかきながら飛び起きた。
なにやら、イヤらしい夢を見たような……。
「ん~?どうしたんですか?先生~」
隣には……裸のハズス君が眠い目を擦りながら話してきた。
辺りを見渡す。
旅館らしき部屋の一室。
布団がひとつ。
脱ぎ散らかした服。
裸の女子高生……。
「ま……マジ?」
私は裸を隠そうとしないハズス君に驚きの表情をして見せる。
「え?のぼせた勢いで女子高生の私に手を出したことですか?……マジですよ」
マジだった。
未成年ではないにせよ、女子高生に手を出してしまって、ひどく落ち込む私に、やれやれといった表情でハズス君が言った。
「先生……今時、女子高生だってやることやりますよ。それとも、先生は私を観賞用でそばに置いていたのですか?綺麗に盛り付けられたお刺身だって、食べなきゃもったいないですよ」
「……確かに。いや……でも……」
私はハズス君に論破され、ひどく納得した。
確かにそうだ!鮮度のいい時に食べなきゃお刺身がもったいない!お刺身に失礼だ!
それに、私は選択肢を外したことがない!
「……舟盛りのおかわりをお願いしたいのだが」
「もう、ラストオーダーですよ……先生」
ハズス君は嬉しそうに私に抱きついた。
……つづく。
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