第6話 『異次元の選択肢』
私、
私には人には言えない秘密がある。
それは、数ある選択肢において、私が選んだ選択は必ず正解するのだ。
私は今朝もヨイに膝枕をしてもらいながら、顔に夢と希望を乗せていた。
「あなた、本当におっぱいが好きね……」
目をつむる私にヨイが半ば諦めた口調で話す。
「私はおっぱいが膨らんでるのは、夢と希望が詰まっているからだという定説を学会で発表しようと思う」
「うん、やめてね」
あっさり否定されたが、ヨイは夢と希望の詰まったまるでサンタクロースの袋を私の顔に押しつけた。
「く、くるしい……」
おっぱいが私の口を塞ぐ。
「はぁ~まったく……あら、通販番組」
まずい……ヨイは通販番組を見始めたら夢中になって最後まで見てしまうのだ。私が息を止められてから20秒、通販番組が終わるまであと15分。……うん、私、死ぬな。
完全に息をするすべを失った私だが、不思議と怖さはなかった。彼女の優しさに包まれて逝けるからだ。ここが私の人生の終着駅。私はたどり着いた。それでは、みなさん……ごきげん……よ…………う。
「おっぱい星人から正解を救うのだ!」
パジャマ姿のヤサシイが駆け寄り、ヨイの両肩を引くと夢と希望が死にかけの私の顔から離れる。
「ぶはぁ――!!ふぅ、また死にかけた」
深く息を吸い、またも生還した私は、ヨイの顎をクイッと上げ、優しくキスをしているヤサシイを目撃する。
「んぅ――!?な、なにするのよあんた!!」
ヤサシイの唇を無理やり離す。
「ん?ヨイピーが私に惚れれば正解を一人占めできるかなと思って……てへぺろ」
顔の斜め上にピースサインをして、ウィンクをして、ぺろっと舌を出したヤサシイ。
まさか、この歳になって『生てへぺろ』を拝めるとは思わなかった。もう、失われた言葉だと思ってた。
「もう!相変わらずギャルの考えることはわからないわね……」
少し照れながら自分の唇に手を当てるヨイピー。
そんな、いつもの何気ない日常を送っていた私だが、これからとんでもない事件に巻き込まれるなんて、この時はまだ知るよしもなかった。
それは、ハズス君が連れてきた、依頼人の少年がもたらした事件だった。
―――――――――――――――――――――――――――――
「私の名前はホームズ・リョーマ、ある組織に終われている。
その小学生2~3年生ぐらいの男の子は、まるでたくさんの人生を過ごしてきたかのような口調で話した。
たまらず、ハズス君が口を挟む。
「ぼく~?お母さんはどこにいるのかな~?連絡取れるかな~?」
「…………」
完璧な無視を決め込む小学生。
「匿うとは、具体的にどうしたらいいの?」
さすが、現役警察官。ヨイは依頼主の物差しにあった口調で対応する。
「ここに住まわせてほしい」
いきなりの要望にヤサシイが席を立つ。
「それはダメよ。ここは私と正解の愛の巣箱なのよ!」
それを言うなら『愛の巣』である。急に入り口が丸い家になってビックリした。
「誰があなたと正解の愛の巣よ!私のほうが先に好きになったのよ!」
ヨイも立ち上がったが、すぐさまハズス君が二人をなだめる。
「ほらほら、ふたりとも、子供の前でみっともないですよ」
ふたりは顔を赤らめながらソファーに座り直した。私はノーコメントしか選べなかったので正直、かなり助かった。
「そうですか……はっ!!まずい!!見つかった!!隠れて!!」
依頼主のホームズ・リョーマがいきなり叫んだ!!
私は咄嗟に額に人差し指を当てる!
私は……。
A 机の下に隠れる。
B ヨイの胸の谷間に隠れる。
―――――――――――――――――――――――――――――――
A 机の下に隠れる だ!!
私の指示で全員、机の下に隠れた。
バババババ――!!!!
突然、窓ガラスが割れた!
どうやら、80階にある私の事務所を何者かがヘリに搭載された重機関銃で狙撃したのだ!
「キャ――!!」
女性陣の叫び声が部屋に響く。
まずい!私は咄嗟に一緒に隠れたヨイの胸の谷間に手をいれる。
「あん!……ちょっと!正解、今、それどころじゃ……」
私はヨイの胸の谷間から銀の弾丸を取り出し、ヨイに渡す。
「ちょっとあなた!どこになにを隠してるのよ――!!」
「ヨイ!これでヘリを撃ち落とせ!」
「へ!?も、もう!どうなっても知らないわよ!!」
ヨイは携帯していた銃に銀の弾丸を詰め込むと、ヘリに向かってぶっぱなした!
ドン!
「ダメ!ヒビが入っただけだわ!」
機体にヒビが入ったが、構わずヘリの銃口は私達に照準を合わせる。
もうダメだと思った瞬間、リョーマが立ち上がる。
手には二丁の拳銃が握られていた。
「ありがとうございます。僅かなヒビですが、ボクには十分です」
そう言うと、2丁の拳銃を構え、ヘリにぶっぱなした!
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!
「うらうらうらうらうらうらうら、うらぁ―――!!」
「すごい!全弾ヒビに命中している!!」
私はリョーマの後ろでヨイを抱きしめながら驚きの光景を目の当たりにした。
ドガァァ――ン!!
ヘリは墜落した。
「ふぅ……私のせいで……すいません」
リョーマは振り向き、深々と頭を下げる。
「説明……してもらおうか」
ひどく落ち込む少年に私はため息をひとつついたあと、襲われた訳を聞いた。
「実は、私は体は子供ですが、実際は55歳の大人です。大人だった頃は、伝説の殺し屋『ゴルフ31(サーティーンワン)』などと呼ばれていました。ある組織の実験で子供の姿にされ、逃げ出した私は『レインボーの組織』に追われているのです」
すごい!漫画の主人公みたいな依頼人だ!
伝説の殺し屋って自分で言っちゃってる!
本当にこんな人、いるんだ!
「……正解先生」
ひどく落ち込む少年を気の毒に思ったハズス君が私に悲しい顔を見せる。
「わかった。しばらくうちに置いてやる」
「あ……ありがとうございます!」
「正解……あんた、男だね」
ヤサシイが私の腕におっぱいを押しつけながら「でも、22時以降は寝室へ入ってきちゃダメよ」とリョーマに告げた。
――――――<キュルルル……(世界が巻き戻る)>―――――――
B ヨイの胸の谷間に隠れる。
私は勢いよくヨイの胸の谷間に顔を沈めた。
「きゃぁ――!!ちょっと!!正解!!なにをふざけて……」
ヨイが叫び声を上げた瞬間、80階の事務所の窓ガラスが割れ、光のレーザーが飛んできた。
ピカァ――!!
「おりゃぁ――!!」
私はヨイの胸の谷間に隠しておいた手鏡を口に加え、光のレーザーを跳ね返す!
「きゃぁ――!!」
「ギャァ――!!」
ヨイのおっぱいがポロリした叫びと、窓の外の何者かの叫び声がハモった。
「円卓の者よ……許さんぞ」
身長2メートルほどの大男で歪な羽をなびかせ宙に浮く何者かが声を発する。
リョーマは私達の前に立つと光輝く両手を何者かに向けた。
「魔王マキマキ!円卓の賢者リョーマの裁きを受けるがいい!
ピカァ――!!
「まさか!その力は!?ぐぅわあ……ぁ……ぁ……」
リョーマから放たれた五つの光は何者かを包み込み、何者かは光の中へ消えていった。
「さて、どういうことか説明してくれ」
私は頬にヨイにビンタされた手形を残しながら真面目に依頼主を問い詰める。
「すいませんでした。実は私は一度、異世界に転生して魔王を倒したあと、再び転生して地球に戻った者です。倒したはずの魔王が生きていて、転生して私の魂を追って地球に来たのです」
え――!!?すごい人、キタ――――!!
転生って……えぇ――!!
そんな漫画の主人公みたいな人、本当にいるんだ!
ザマァ系かな?どんなチートスキル持ってるのかな?
「……正解先生」
ひどく落ち込む少年を気の毒に思ったハズス君が私に悲しい顔を見せる。
「……わかった。しばらくうちに置いてやる」
「あ……ありがとうございます!」
「正解……あんた、男だね」
ヤサシイが私の腕におっぱいを押しつけながら「でも、22時以降は寝室へ入ってきちゃダメよ」とリョーマに告げた。
―――――――――――――――――――――――――――――――
こうして、新しく事務所に住むことになったホームズ・リョーマ。さっそく生活必需品を揃えるためにハズス君と買い物へ出掛けていった。
残された私にヨイが詰め寄る。
「あなた、いつの間に私の胸の谷間にあんなのの隠したの!?」
「今朝だよ……。言っただろ、夢と希望が詰まってるって」
「本当に詰めるバカがどこにいるのよ――!!」
すいません……ここにいます。
「私は缶コーヒー挟めるよ。飲みたいとき言ってね」
ヤサシイが胸の谷間に缶コーヒーを挟んで私に見せる。
「あなたは胸に羞恥心を詰めなさい――!!」
「まぁ~まぁ~」
取っ組み合う二人をなだめるフリをして、私はヨイの胸の谷間にさらに隠し入れていた部屋の合鍵をこっそり取り出した。
あとでいい雰囲気になった時に取り出して「合鍵、渡しとくね」「もぉ~正解ったら~。ここはあなたと私の秘密のポケット」なんて会話を妄想をしていたが、見つかったら殺されそうだと悟ったからだ。
ともあれ、今回も私の選択肢は外れなかった。
私は、外さない!
名探偵、全問正解!!
次回予告『だから22時以降は部屋に入っちゃダメって言ったでしょうが!!』
乞う、ご期待!
「こら――!!変な予告出すな――!!嘘だからね――!!」
元カノ、気月ヨイの叫び声が割れた窓ガラスから夜の闇に向かって放たれた……。つづく。
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