第5話 『二人の選択』

 私、全問正解ぜんもんせいかいは私立探偵だ。


 私には人には言えない秘密がある。


 それは、数ある選択肢において、私が選んだ選択は必ず正解するのだ。


「正解~ポットどこに閉まったの?」


「あ、ポットは上の棚……」


「もう!なんで、わざわざ取りづらいとこにしまうのよ!」


 長めのTシャツを着ていた気月ヨイが背伸びをしてポットを取り出す。


 Tシャツがスススッと上がり、座り心地の良さそうなサテン生地の黄色いショーツがお目見えした。


「あなた、まさかパンツ見るためにポットを上に置いたんじゃないでしょうね!」


 私の視線を感じたヨイはTシャツを押さえながらコーヒーカップとポットを持ってくる。


「あ、いや……」


 さすが警察官!するどい!


「昨日、いっぱい見たでしょ!……下着の中まで」


 !!ヨイの言葉に体が硬直する。


 一部分じゃないよ!体全部が硬直だよ!


 私が見えない誰かに説明をしていると、後ろから眠そうな声がする。


「ふぁ~、あ、コーヒー?私はブラックで」


「あんたの分はないわよ!」


 かわいいフワフワのパジャマ姿の実原ヤサシイが欠伸をしながら登場した。


 昨日さくじつ、事件を解決したご褒美を二人から貰った際に元カノ二人はなぜか意気投合。


 そのまま、私の事務所兼マイホームへ居座る流れになってしまった。


 なんで?って、私が聞きたいくらいだ。


「いいから二人とも、ちゃんと服を着て!もうすぐ助手の解答ハズス君が来ちゃうよ!」


「え?ハズスちゃんなら、もう来てるよ」


 パジャマ姿のヤサシイの後ろからひょっこりハズスが顔を出す。


「先生って、都合の悪い選択肢は選ばないんですね」


 グサッ!!さすが、私の助手!痛いところを突く!!


「正解が私を選ぶまでここに住も~っと!」


 ヤサシイは私の隣に座り腕を組む。


「ちょっと!朝からイチャイチャやめてよ!」


「え~夜ならいいの~?」


「なっ!!」


 ヤサシイの言葉に真っ赤になるヨイ。


「先生、不潔」


 ぐっ!!いちいち心に刺さる言葉を発するハズス。


「あなたの選択に私達は従う。だけど、あなたが選ぶまで……私はがんばるって決めたの」


「ヨイ……」


 ヨイの言葉に心が痛む。


 私は頭の中に浮かぶ選択肢で物事を選ぶ。


 私は一度もその選択肢を外したことがない。


 だが、ヨイかヤサシイ、どちらを選べば正解か……その選択肢は頭の中に浮かばなかった。


 だから、申し訳ない。私は……選べないのだ。


「……私も選択肢に入れてもらおうかな」


 ボソッと巨乳女子高生ハズスが何か言った。


 ピンポーン。


「ほ、ほら!依頼者が来ちゃったよ!早く着替えて――!!」


 こうして、波乱の同棲生活が始まった。


―――――――――――――――――――――――――――――――


「正解先生……これは?」


 今回の依頼主、堂出物どうでもイイさん80歳は戸惑っている。


 当たり前だ。向かい合ってソファーに座る私は、警察官の格好をした気月ヨイ、ギャルの格好をした実原ヤサシイに挟まれ、後ろに巨乳女子高生を立たせている。


 普通に考えたら『ハーレムエッチ異種格闘技戦』などと安いタイトルがつきそうなAV撮影現場だ。


「イイさんお気になさらずに。で、依頼とは?」


「え~、あの~、わしゃ明日、孫に会うために、初めて新幹線に乗るんじゃがの~。窓際に席を取るべきが、通路側に席を取るべきか迷っているのじゃよ~」


 うん、至極どうでもいい。


 私は額に人差し指を適当に当てる。


 A 窓際


 B 通路側


―――――――――――――――――――――――――――――――


A 窓際


「窓際がいいですよ。富士山見えるし」


「ほわっ!確かに!わしゃ富士山大好きじゃ!先生に相談してよかったわ~」


 思いの外、感謝された。やはり私は外さない。


――――――<キュルルル……(世界が巻き戻る)>―――――――


B 通路側


「絶対、通路側ですよ。イイさんトイレ近いでしょ。通路側のほうがトイレに行きやすいですよ」


「ほわっ!確かに!窓際だとトイレに行くのに「ちょっとすいません!あ、隣の人が寝てる!テーブル出てるから通路に出れないし……」何てことになったら……大惨事じゃ!!」


 すっごく感謝された。正解だった。やはり私は外さない。


―――――――――――――――――――――――――――――――


「しかし、どうでもいい依頼もあるのね……。あなたは連続爆破解除で有名になったんだし、仕事選べば?」


 依頼主が帰ったあとヨイがため息混じりの話にハズスが口を挟む。


「あの事件ですね!あれで感銘を受けた私は、先生のところに転がりこんだのです!間違えたら爆発するコードを青!白!青!と見事に……」


 ヤサシイがハズスの言葉を遮る。


「あれ?黄色、白、黄色じゃなかった?正解、縞々好きだし。ほれ、私の下着も縞々」


 ヤサシイはスカートをたくしあげ、私の好きな黄色と白の縞々ショーツを見せる。


 残念ながら、ヤサシイのたくしあげられたスカートはヨイに瞬時に戻された。


「やめなさい!ギャルは例外なくバカなの?でも、切ったコードは赤色、青色、黄色よ。警察で確認したから間違いないわ」


 三人が違う色を言っている。あの時、私の頭の中に三つの選択肢が浮かんだことは覚えている。


 ……あれ?どれを選んだっけ?覚えてないな……。


 正解を選んだことだけ覚えている……。


「ま、当たったんだし、いいんじゃない?じゃ、私は学校に言ってきま~す!」


 実原ヤサシイは小さなぬいぐるみのキーホルダーをジャラジャラつけたバックを片手に玄関へ急ぐ。


「あら?あなたちゃんと学校に行ってたの?」


 気月ヨイが腕を組みながら話しかける。


「当たり前っしょ!私は将来、看護師になるんだ!ゴホウシ看護大の3年生で~す」


「な!ゴホウシ!?名門じゃない!なんであなたみたいなギャルが……」


 驚きを隠せないヨイ。


 そんなに有名な大学なんだ……。


「だって未来の旦那様には、ずっと健康でいてもらいたいっしょ!じょ、行ってきま~す」


 ヤサシイは私にウインクをして学校へ向かった。


「これは、思わぬところでライバル出現ね」


 気月ヨイが実原ヤサシイを本当の意味で認めた瞬間であった。


「浸ってるとこ悪いんだけど、ヨイ、出勤時間、過ぎてない?」


 私は9時を回った時計の針を指差す。


「あ――!!しまった――!!私も行ってきま――す!!」


 ヨイも慌てて事務所を飛び出した。


「さて、先生……昨日、何があっから洗いざらい吐いてもらいますよ」


 女子高生、解答ハズスは机に置いてあったライトを手に取り、私の顔に当ててくる。


「さ、さて!私は出掛けるかな!」


 私は逃げるように玄関へ走る。


「あ、こら!待て――!!彼女達にしたこと、私にもしなさ~い!」


 そんな、アウトな選択肢は私でなくても選ばないよ――!!

 

 <次の設問へつづく!>

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