第2話 萌えキャラ缶ペンケースのイマジナリーフレンド。

翌日。登校、教室で授業を受ける澄雄すみおの机の上には、缶ペンケースに腰かけるフェアリンの姿があった。


昨日の出来事。ありがたいことに夢でも幻でもなかったようで、どういう仕組みか缶ペンケースを住居とするフェアリンは、澄雄すみおの鞄に入り一緒に学校へ来ているというわけで。


(あの、フェアリンさん。校則では校内への美少女フィギュア持ち込みは禁止。出来れば机の中、缶ペンケースの中で大人しくして欲しいのですが、いかがでしょうか?)


声を潜めてフェアリンに話しかける澄雄すみおの姿。これは美少女フィギュアではない。美少女妖精でありノーカンである。と言ったところで通じるはずもない。


そして、校則もそうであるが、もしも美少女フィギュアを机に授業を受ける場面。クラスメイトに見られては変態オタク野郎としてイジメ・ロックオンは間違いない。


幸いにも澄雄すみおの席はクラスの1番後ろ。未だ誰にも見られていないようであるが――


「今から授業で使うプリントを配るぞ。1枚とったら後ろの席まで回していってくれ」


前の席から後ろの席へ手渡しで回されるプリント。澄雄すみおの前に座る女生徒は受け取ったプリントを澄雄すみおに回すべく、今にも後ろへ振り向こうとしていた。


(ヤバイって! フェアリン。早く缶ペンケースに隠れてくれ)


しかしフェアリンは動かない。


そうこうするうち。前に座る女生徒は振り向くと同時に右手に掴んだプリントを一閃、澄雄すみおの机に置くその動き。ちょうど缶ペンケースに座るフェアリンを腕で薙ぎ払う形となっていた。


「あっ!?」


思わず声を上げる澄雄すみおの前。コロコロ。腕で払われたフェアリンは机を転がり床を目指して一直線。転がり落ちて行くかと思えたその瞬間。


パタパタ。背中を生える魔法の羽でもって宙に浮きあがると、再び缶ペンケースへと舞い戻り腰かけていた。


そんな驚異的な光景にも女生徒はまるで目もくれず、澄雄すみおの奇声にキモッと顔をしかめるだけ。何事もなかったようにそそくさ前に向き直っていた。


(マジかよ……? フェアリンだぞ? 空を飛んだのだぞ? それに対する反応が俺を見てキモッだけとは……?)


「なんだ? 用瀬ようせ。おかしな声を出して。授業中だから静かにしろよ?」


注意する先生の目線は澄雄すみおを捉えており、必然、机に座るフェアリンもまたその視界に捉えることになる。さらには先生の声に周囲の生徒も一斉に澄雄すみおを注視する。つまりは今、クラス全員がフェアリンの姿を目撃しているわけだが……


「よし。授業を開始するぞ。みんなプリントを見てくれ」


クラスの目が澄雄すみおを注目するのも一瞬。先生の声に全員が自分のプリントへと向き直り、何事もなく授業は再開されていた。


(どういうことだ? もしかしてだがフェアリンの姿。他の者には見えないのか?)


それはその後の授業でも同じ。昼休み、放課後。ついには自宅に帰り着くまで、誰もフェアリンに気づく者は存在しなかった。


自宅。澄雄すみおの部屋の中。放映されるテレビ番組を楽し気に見つめるフェアリンの姿に。


「フェアリンって他の人からは見えないのな」


話しかける澄雄すみおの声に、うんうんとうなずくフェアリン。


「そうなるとフェアリンってなんなんだろうな? 幽霊?」


プルプル首を横に振るフェアリン。違うらしい。


確かに令和のご時世、幽霊も何もないだろう。となれば。


「悪霊か怨霊?」


何故そっちに行くのかとばかり、ぶんぶん盛大に振られるフェアリンの首。となると……


「魔法妖精?」


にっこり笑顔で頷くフェアリン。

これはアニメと同じ魔法妖精で間違いない。


「てことはやっぱり魔法使えるの? アニメでフェアリンが使う風魔法ジャスティス・インパクトは核爆弾なみの威力だったが……?」


フェアリンは両手を胸に祈るようなポーズ。しかしMPが足りないのか何も起こらず、遂には泣きそうな顔となっていた。


「うおーん。大丈夫。魔法が使えなくてもフェアリンはフェアリンだから大丈夫だよ」


頭をちょいちょい指先でなでるだけで、笑顔となるフェアリン。


(フェアリン可愛すぎる!)


そんなファエリンをガン見する澄雄すみおの目線。恥ずかしくなったのか、フェアリンは逃げるように空へ飛び上がる。


「おお! と、飛んだ! って、学校でも飛んでいたか……」


だが、学校では床に落ちる寸前、机の上まで飛び上がる大ジャンプのようなものであったのに対して、今のフェアリンは部屋の中。澄雄すみおの目の前を完全に飛び回っていた。


「そういえばアニメのフェアリンも空を飛べたな。すげえ! これが魔法や!」


澄雄すみおに褒められるのが嬉しいのか更に高くまで。澄雄すみおの頭上。部屋の天井近くにまで飛び上がるフェアリン。


ちなみにフェアリンの服装。魔法妖精に相応しく制服を模したその外見。当然に下半身はスカートとなっているわけで……


(んおお! パーフェクトホワイト! やっぱりフェアリンは最高や!!!)


そんな室内を飛び回るフェアリンの姿。ありがたく眺める澄雄すみおであったが……


(……フェアリンって、やっぱり俺のイマジナリーフレンドなのかな?)


イマジナリーフレンドとは心理学、精神医学における現象名の1つ。他人から見ることの出来ない想像上の友人、空想の遊び友達。幼少期ひとり遊びの時間が多い子供に見られ、大人になるにつれ消失するという。


つまりはフェアリン。室内を飛び回り元気いっぱい。本物の魔法妖精に見えようとも、その姿形は全て澄雄すみおの見る幻想。いずれ澄雄すみおの成長に伴い消失する。


現代科学の常識から言って魔法妖精など存在するはずがないのだから、澄雄すみおがそう考えるのも当然。


だからこそ今この時間。室内を飛び回るフェアリンの姿。しっかり目に焼き付ける澄雄すみおであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る