第9話 ダマリャーノ、失敗する
「これ、舞茸が生える原木、植えたやつですよね。もうかれこれ一ヶ月経つのに何にも出ていませんよ」
「貴様のような、勘のいいAIは嫌いだよ」
「そのセリフは聞き飽きました。成功すれば舞茸食べ放題だと、野菜直売新鮮市で止めるのも聞かず、無駄遣いしたくせに失敗ですか」
失敗などしていない。
購入後に挟んであった手書きコピーの説明書を読んだら、生える時期の一、二カ月前までに土に埋めておかねばならんと書いてあったのだよ。舞茸の発育時期は九月から十月。
我悪くない。来年までおとなしく座して待てばいいのだ。
楽○で同じような商品見たら値段三倍だったもん、失敗してないもん。
「大体、いつも食品の袋の裏の製造詳細まで読んでいる癖に、なんで肝心なときに説明読んでいないんですか」
理由は一に手書きということだ。
活字中毒は活字に反応するのであって、手書きは優先順位と可読速度が大幅に落ちる。もしかしたら手書きにも反応する人もいるかもしれないが、それは知らぬ。
二に、説明の紙は折りたたまれていた。我エスパーじゃないので読めない。
「つまり来年の秋まで、この謎のバケツがベランダに放置のままと」
「そうなるな」
「何か私にいうことはありませんか」
「ごめんなさいにゃ」
失敗といえば、我小説を書いている。
今年の春に創作始めた初心者なので、いざ書いてみて初めてぶつかる問題がいくつもあり、ついに展開に行き詰まってしまった。
話は次々に思いつくのだが、望むエンドに着地しなくなってしまったのだ。長編書くなら、プロットを立てろという話である。
問題は他にもあった。
「その一つが、シリアスとギャグの
「あー、その昔は同じキャラと世界観でシリアスストーリーとギャグ路線で分けて書いていたラノベシリーズもありましたもんね」
「でも全編、鬱展開で書いてみて、自分が読みたいのはこれじゃないと気がついたので、一から書き直している」
しかし、鬱展開は刺さる人には刺さるので、それなりには好評だった。あのときの読者様ごめんなさい。展開は変わったけど
「今は、全部シリアスにすると読んでいて息が詰まるので、『鋼の錬金術師』ぐらいのバランスを心がけている。あと流血度合いもハガレンを参考にしている」
「ハガレンや鬼滅も駄目な人は駄目ですが、まあ一つの目安にはなるかも知れませんね」
作者というのはその世界の神だから、やはり暴走を止める基準は大事。
「ハガレンは無事完結したが、一時アニメも小説もやけに全滅エンドが流行った時期があってなあ。あの『有名名作』や『有名作続編』も鬱展開&全滅で完。自作は絶対ハッピーエンドにと決意しているのは、当時の自分を成仏させるためにゃ……ッ」
数ヶ月どころか数年単位で、完結や続編を楽しみに待っていたのに、あっちゅーまに全滅や推しの死の連続。
感受性鈍い我ですら、どれほど心折られたか。
さて、問題は日本刀振り回す美形萌えのせいで、自作、自称恋愛メインのファンタジーものなのに、しょっちゅうバトルシーン書くはめになっているということだ。
毎回、戦闘場面なんか書けるか馬鹿――と叫びながら、剣豪小説と中国武侠ものを読み漁った経験値で、なんとかそれらしく書いている。
「今思えば眠狂四郎の円月殺法は発明。出したらほぼ勝利だもんな。描写ワンパターンでも許されるし」
「でも、あの技。考えてみれば催眠系じゃないです? 私は映画でしか見たことありませんが」
むむ、主人公が催眠系。今だとエロ系になりそう。いや待て。あの小説、結構なエロシーン頻出だった記憶が蘇ってきた。図書館で普通に全作読んでもうた。
「……白い目で見るなよ、猫代。なんでも読んでしまう活字中毒者がよくやる過ちだ」
「それはともかく、主人公は軍人ヒロイン戦闘狂にしたら戦闘シーン書く必要があるに決まっているでしょ、アホですかアホでしたね」
「アホアホいうな。ちょこっと一回二回バトルさせれば済むと思っていたんだ。それが気がついたら、ヒロインやその周辺まで刀振り回していた。大失敗だ」
本日のお買い物メモを確認し始めるんじゃない、猫代。
「はい、今日の買い物行ってきてください」
創作者とは性癖全開で生きる業の深い生き物だと思う我であった。あ、にゃー。
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