第7話 ダマリャーノ、目撃する

 我はダマリャーノ。


 ちょっと聞いていただきたいことがある。

 先日、猫らしくぼけっと公園のベンチで過ごしていたときのことだ。あ、にゃー。


 近くに幼稚園があってな、園帰りの数人の園児が無邪気に遊び、お母様方が井戸端会議に花を咲かせていらっしゃる平和な公園だ。たまにスズメバチが巣を作る。


 気がつけば、男の子ふたりが見つめあっている。まっすぐな視線がまぶしいな、おい。


「ねぇ、たっくん。結婚するならどんな人がいい?」


 唐突に始まったな。聞かせてもらおうか、推定五歳児の結婚観とやらを。


「そうだね、ぼくは心がきれいな人がいいな。よしくん」


「ふーん、ぼくもやさしい人がいいなあ」


 駄猫が浄化されてしまうような会話はやめろ。

 そんな訳でクールを装って去ろうとした我だが、一歩ばかり遅かった。


「ぼくはたっくんの心はきれいだと思うよ」


「よしくん……」


 そこなお母様方――!!


 おたくの坊ちゃんがた、危険が危ない方向に足を踏み入れてますよ。団子虫を帽子に山盛り詰めるより、よっぽどやばい状況っすよ――。


 という猫の心の叫びが通じるわけもなく、坊ちゃんがたがひしと抱き合う姿を見ないふりして、とっとと平穏な宇宙に逃げ戻った我である。


 ああ、我。腐ってない猫でよかった。

 しかし、逃げ去る前にお母様方の一人の愚痴をうっかり耳にしてしまった。


「いやぁ、留守番を任せていた旦那が昼寝しくさってて。私が帰ったら、リビングに水撒きされてて家電全滅よ」


 その凶悪犯。

 果たして、たっくんか、それともよしくんか。



 ……



 教訓。

 やんちゃなお子さんを持つ親御さんは、火災保険の補償範囲を確認しておくべし。

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