第53話 『絵にし辛いお話』 その2

「……………よしっ、今日はここ迄で。」

「……………良いのかなぁ、お兄ちゃん?」


フワフワと浮かびなから、決められた作業を終えて帰ろうとした僕に声を掛ける従姉妹。


「いいんだよ、いつまで此処が『安定』しているか誰にもわからないんだからさぁ。」


頭上遥か先に見える、眩しく光る太陽。

足元には、何も無くて。

大人達の言うことには、此処は『重力均衡点』で安定しているって。

僕達がしていたのは、生存可能空間の確認。遥か足元にある『大地』から離れて、何処まで呼吸可能かを確認して回る。少しでも息苦しくなったらそこでマーカーを設置して引き返す、子供でも簡単に出来るお仕事。


巨大小惑星が地球に衝突してからもう一年が過ぎた。僕らの住んでいた村は元々硬い岩盤の上に有ったそうで、衝突の衝撃で崩壊する大地から弾き飛ばされて集落丸ごと宇宙空間を漂ううちに軌道上の重力均衡点に捉えられたとか何とかで、不思議なことに僕らは小さな大地を中心とした生存可能空間で生き長らえていた。


「さあ、戻るぞ。」

「………………うん。」


二人で戻ろうとそう思っただけで、『大地』に向けて漂い始める。何故そんな事が出来るのか、誰にも説明出来なくて。でも、みんな思った通りの方向に漂い進む事が出来て。

ゆっくりと大地に降り立ち、僕達二人で住んでいる家に帰る。

空を見上げると、地球から千切れて粉々になった残骸が月の重力に引き寄せられて帯状に陽の光を浴びて輝いていて。

何故僕らは此処で生き長らえていられるのか、誰にもわからなくて、それでも今日も畑を耕しながら生きていく事しか出来なかった。

今日設置したマーカーで、僕らの住んでいる大地上空の生存可能空間が視覚的に理解できるようになった。反対側の生存可能空間の確認が明日から始まる。

大地として利用している平らな岩の上が生活空間で。その上下にS字型に伸びる『大気圏』と仮に呼んでいる呼吸可能な空間がマーカーで描く様に表されて。

大地を少し離れると、無重量空間になって。

文字通り、空を飛んでいる、宇宙を駆けている様に思えて。飛び出す勢いで進んでも、ある地点からは弾かれる様に戻されて。

今日も弾かれるように大地に戻り、今日の夕飯の収穫を。

地球崩壊前に植えた野菜や穀物はもう食べ尽くしていて、植え直した野菜達が僕らの命綱になっていた。幸いにも季節に関係なく植え付けが出来るので、葉物から始めて豆類が収穫出来始めてきていた。

集落で飼っていた鶏や牛馬豚羊山羊を始め、森と呼ぶには心細い雑木林も残っていたので薪や山菜や果実も収穫出来ていて当座の生活は成り立っていた。

どういう仕組みかわからないけど森の奥の水源から水を引くことが出来て、自給自足生活が成り立っていた。


「お兄ちゃん、これって、やっぱり魔法だよね?」


中空にフワフワと浮かびながら聞いてくる従姉妹。


「……………ん、そうだな。」


一緒に中空に浮かんで並びながら、答える。

二人で肩を寄せ合いながら、今日設置したマーカーが光り輝くのを眺めて。

いつまでこの平和な生活が続くのか不安を抑えながら、目の前を横切る流れ星を見ながら祈った。

そして、大人達から私達に課せられた『次世代』に繋ぐための務めを果たす為に、今日も従姉妹と寝所を共にするのだった。









『ルル〜、そっち行ったよ〜?』

『オッケー、任せて〜!』


小さな大地に向かって落ちていく地球の欠片を消滅させ光に変えて、同時に漏れていった空気を補充する。

大地をこの場所に安定させた当時は、毎秒数百個もの大小様々な欠片を消していった。

中には人の乗ったモノもあったけど、加護を授けた村人達の事を優先して消滅させていった。放っておいても軌道を変えても生き延びる事は不可能だし、何よりも婆ちゃんが眠る墓地の加護と孫たちの無事を最優先にするのは当然の事で。


『また来たよ〜、今度は人が乗ってる〜』

『またか〜、悪意が感じられるから消して〜』


小惑星衝突の寸前まで大小様々な乗り物が宇宙に打ち上げられて。そのほとんどは衝突の衝撃に巻き込まれて消えていって。

月まで辿り着いた船も、大陸が千切れた地球の重力異常の影響で壊れて死滅して。地球に残って生き延びた者達も水や食料、燃料が尽きた順に死に絶えて。


『え〜、役に立つモノを積んでるよ〜、どうする〜?』

『それでも要らないかな〜、上陸したら皆殺しにして占領するように命令されてるみたいだからさぁ、消して〜』

『了解〜!』


一瞬で消滅し消え去る、崩壊する地球から脱出して生き延びていた『侵略者』

勿論、村人は何も知らない気が付く事もない。

地球が安定して再移住出来るようになるまでには、私達の加護をもってしても数年は掛かるだろう。

その時まで、私達は守り続ける。婆ちゃんの墓とその子孫達を。






トーさんの『絵にし辛いお話』の導入部はここまでです。

この後のお話は、孫たちの冒険の物語になります。

続きを読みたくなった方は、コメントを沢山いただければ続きを投稿しようかと思いますのでよろしければ星と共にお願いします。

反応が無かったり少なかったり悪かったりしたら、時々このお話の中で続きを投稿しようかと思います。

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お見合い、ですか?寝取られた二人の、勘違いすれ違いラブストーリー じん いちろう @shinn9930

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