第35話 弟と妹と 帰省 ①

白い壁。白い天井。白いシーツが敷かれたベッドに横たわる青白い顔色な、父。


家族3人が呼ばれて、父の希望で一人ずつで話をしていた。

傍らの椅子に掛けて、母の両手を握り締めながら、ゆっくりと話す父の言葉に耳を傾けた。


「真樹、お母さんにいい人が出来たら、応援してあげてほしい。」


父は、何を言い始めたんだろうか。

もっと、他に、言うことが有るだろうに。


「父さん…………………………………何を?」


「お前は母さんが再婚しようとしたら、反対するだろうから。」


そうだよ!父さんの為に反対するよ?


涙が、止まらない。

僕と対照的な、笑顔な父との、最後になるであろう、親子の対話。


「お前の人生は、お前の物だ。やりたいことを、選びなさい。」


「父さん、やっぱり、医学部に行くよ。研究者になって、父さんの病気を治すんだ。」


「……………………そうか、『今度、会える時』を、楽しみにしているぞ?」



…………………………………………夢か。

久しぶりに、父さんと会えたな。



金曜日、夕方5時台の、東京行きの、ジェット旅客機内。

自分ではわからないくらい、疲れているんだろうか。

その、疲れの原因の一つが、何故か隣の席に居るんだが?

偶然、だよな?


「真樹!大丈夫?うなされてたよ!」


「あぁ、夢の中で、久しぶりに父さんと『会えた』んだ。」


疲れの原因の一つの、砥部歩海。

昨夜、父さんからの連絡直後に彼女に呼び出されて無理矢理ホテルと言う名のお部屋へ連れ込まれて、どういうわけか一晩中『噛みつかれて』いたから。

お前はライオンの雌かよ!と突っ込みたくなる様な求め方だったし。

それを拒まずに同じように『噛み付く』俺も、どうかしてるとは思うが。


「そう、良かったね。でも、疲れてるみたいだから、無理しないでね?」


「あぁ、ありがと。」


お前は元気だな?俺の疲れはお前のせいでもあるんだぞ?とは、言えないよな。

言ったら、この場でまた、襲われ噛みつかれるかもしれないし。


偶然なのか、必然なのか?同じ飛行機で帰省する俺達。

父の再婚相手家族との顔合わせは明日昼過ぎまで。午後の予定が無いことを歩海に聞き出されてしまった俺は、『デート』に誘われてしまった。


『なんでお前とデートなんだよっ?』


『ん〜、ストレス解消?私、明日のお昼の予定でストレス溜まりそうな事をさせられるから。』


良くわからない理由だったが、俺もストレス溜まりそうな事をさせられるから、ストレス解消に丁度良いかと了承してしまった。

但し、明日は『ホテルと言う名のお部屋』には行かないからな!ストレス解消は、別の方法を考えるんだぞ!

帰りも一緒に帰ろうと、約束させられてしまったし。


あぁ、思い出した。入試に北の大地へと向かう飛行機の中で、偶然座席がコイツと隣り合わせになったんだよな。

入試会場の席も、隣りだったな。


そして、今、オレの隣でニコニコ顔で話し掛けてくるコイツの幸せそうな笑顔を見ていると、今すぐここでプロポーズしたくなっている自分が居た。


「……………………何でお前だけそんなに元気なんだよ!」


「うふっ、あんたの精気を吸い取ったからかなっ?」


「お!ま!えっ!はっ!吸血鬼かっ!!」


「ウフフッ、そうかも?今夜も、一緒にお泊りする?」


「…………………………………断わるっ!」


一瞬だけ、誘惑に負けそうになった自分が怖い。


……………………………………俺、コイツにプロポーズして、無事に卒業出来るんだろうか?

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