第31話 再会

10時5分前。

桜井は、結局戻って来なかった。

何処が、誰が、保護者なんだよっ!


水族館から少し離れた所で入口を伺ってみる。

『ユーちゃん』に会えるという嬉しさと、由紀さんを裏切るかもしれないという悲しさと、入り混じった感情が止められないけど。

それでも、『見つけて下さいっ!』って言われたからには、一発で見つけたいよね?


入口付近には女性お一人様は結構多いな。

その中の一人、開館待ちの列の右後ろに佇み、水族館の建物を見上げる小柄な女性に後ろから、声を掛けた。


「『ユーちゃん』、ですね?」


「……………………はい、『トーさん』、ですか?」


彼女は、振り向かずに、答えた。


「そうです。すぐにわかりました。約束通り、『ご褒美』、くださいね?」


「はい、『考えときます』?」


後ろから、そ〜っと、緩く抱きしめて、耳元で、囁く。


「……………………由紀さん、会いたかったです。」


「っ!……………………私もです…………いつ、気が付きました?」


「ついさっき、後ろ姿を見た時ですね。」


「私は、最後の最後まで気が付きませんでした。悔しいです。」


「ユーちゃん、そのお顔を見せてもらえますか?」


「……………………駄目です!今、泣き顔で、酷い顔になってますから。」


「昨日、泣き顔、いっぱい見てますけど?」


「……………………『由紀』の泣き顔ですよね?今は、『ユーちゃん』です。もう少しだけ、このままでお願いします。」



※※※※※※※※※※



10時5分前。

結良は、結局戻って来なかった。

何処が、誰が、保護者なのよっ!


水族館から少し離れた所で入口を見上げる。

『トーさん』に会えるという嬉しさと、聡一郎さんを裏切るかもしれないという悲しさと、入り混じった感情が止められないけど。


それでも、『見つけて下さいっ!』ってお願いしたけど、こんなに人出が多くても見つけてもらえるんだろうか?


入口付近には女性お一人様は結構多い。

期待を込めながら、水族館入口を見上げ続けていると、


「『ユーちゃん』、ですね?」


「……………………はい、『トーさん』、ですか?」


懐かしく感じる声を、後ろから掛けられた。

今は、振り向く勇気が、ありません。


「そうです。すぐにわかりました。約束通り、『ご褒美』、くださいね?」


「はい、『考えときます』?」


もはやお約束になっている掛け合いの様なやり取りに、涙が溢れ出そうになって、堪えきれなくなりそうで。


後ろから近づく気配と共に、そ〜っと、緩く抱きしめられて、耳元で、囁かれた。


「……………………由紀さん、会いたかったです。」


「っ!……………………私もです…………いつ、気が付かれました?」


息が、止まりそうになって、身体中の力が、抜けそうになって、『トーさん』に抱きしめられてなかったらその場で崩れ落ちてたかも?


「ついさっき、後ろ姿を見た時ですね。」


「私は、最後の最後まで気が付きませんでした。悔しいです。」

 

今、流してる涙は、悔し涙なんだからね!


「ユーちゃん、そのお顔を見せてもらえますか?」


「……………………駄目です!今、泣き顔で、酷い顔になってますから。」


「昨日、泣き顔、いっぱい見てますけど?」


絶対、昨日の泣き顔よりも、ひどい顔になってる!


「……………………『由紀』の泣き顔ですよね?今は、『ユーちゃん』です。もう少しだけ、このままでお願いします。」






作者よりお知らせ


書き貯めが、尽きました。

明日より、不定期更新になると思われます。

プロットは出来ていますので、ゆっくりと続けていきたいとおもいます。

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