第25話 重版出来!
「聡一郎さん、もう一か所お付き合い願えますか?」
クラゲの水槽の前に戻って、涙が乾かないままの由紀さんから尋ねられた。
「はい、お供させていただきます。その前に、お化粧、直しましょうか?僕も、顔を洗って来ます。」
腕時計を確認して、お見合いデート時間の目安だった5時までにはまだ余裕があった。
「……………………そうですね、ここで待ってて下さい。絶対にですよ。お願いしますからね。絶対ですからねっ!」
恥ずかしそうに、何度も『絶対』を繰り返す由紀さんを、可愛いと思ってしまった。
「大丈夫ですよ、逃げませんから。由紀さんも、いなくなったりしないで下さいね。今、いなくなったら、僕はまた泣きますからね。」
「……………………私もです!また、泣きまくるかもです?」
「そうならないように、ハイこれ。」
名刺を取り出して、裏に個人携帯の番号を。
「ありがとうございます。行ってきますね?ここで待ってて下さいね、絶対ですからね。いなかったら電話掛けまくりますからねっ!」
「それはそれで嬉しいから、チョットだけ隠れてようかな?」
「やめてくださいっ!想像しただけで心臓に悪いですっ!絶対ですからね!今泣きますよっ?」
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「やめてくださいっ!想像しただけで心臓に悪いですっ!絶対ですからね!今泣きますよっ?」
本当に、想像しただけて涙が出そう。
化粧室に駆け込んで、深呼吸。
鏡の中には、泣き崩れた後の酷い顔。
手早く直して、もう一度鏡の中の私を確認。
よしっ、行くわよっ!
聡一郎さん、絶対ですからね?
水槽の前、聡一郎さんは座り込んで、水中をユラユラと漂うクラゲを眺めていた。
「おかえりなさい、落ち着きましたか?」
「はい、では行きましょうか。」
ドキドキしながら左手を差し出すと、先程と同じく自然に握り締めてくれた。
「ところで、どちらまで?」
「内緒です。ついてきて下さい。」
「はい、お嬢様の仰せのままに。」
エスカレータで二階まで降りて、少し進んだ先の書店のラノベコーナーへ。
新刊書平積みコーナーを通り過ぎて既刊の本棚へ進み、
「あっ、ありました!」
本棚下に平積みされた中から一冊抜き出して聡一郎さんに見せびらかすように掲げた。
「私の『推し』の作家さんの本が、重版されたんです!」
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「私の『推し』の作家さんの本が、重版されたんです!」
由紀さんが掲げたその本は……………………
僕の、初出版作品!
「………………………………えっ?」
「買いますね。ほら、カバー絵と帯が変わってるんです。」
「あっ、ホントだ……………………………」
知らなかった。
「………………………………えっ?」
由紀さんの反応に、シマッタと思ってももう遅いよね?仕方ないよね、もう誤魔化せないよね?
嘘のない範囲で誤魔化すしかないか。
「僕もこの本の初版持ってます。このカバー絵の絵師を推してますので。」
「ウフフっ、私、今、幸せです。それぞれの推しの作家と押しの絵師の作品を共有出来るんですから。」
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