第22話 弟と妹と 北の大地にて ①

「綾辺っ、そこっ、危ないだろうがっ!」


「わかってるよっ、一々ウゼえぞっ!」


あ〜っ、危なかった!

砥部に声を掛けられなかったら怪我してたかも?


故郷を遠く離れた、北の大地。

もう5年も経ったかと思うと感慨深いが、隣りに居る実験パートナーの砥部歩海が本気でウザ可愛い。


「あ〜っ、もうっ、何で上手く行かないのよっ?」


「歩海ちゃんよ〜っ、マニュアルとその手順が違ってないか〜?」


「……………………あっ、ホントだ〜、って私を名前で呼ぶな〜っ!」


実験室内で二人っきりだったのでつい、癖で、名前で呼んでしまった。

普段は『砥部さん』と呼ばされているんだが、入学直後に一瞬だけお付き合いしていた事もあって、俺の脳内ではコイツは『歩海』なんだよな。


お互い、初カノ初カレで、初体験で、俺としては最高の彼女だと思っていたんだが、お付き合いほんの一月余りで振られてしまった。


理由が、『身体の相性が、良すぎるから』。


初めて同士で良いも悪いも無いと思うんだが、当時は健康な10代男女として制御が効かなかったんだろうとは、今となっては思わなくもないんだけどね。

もし、あのままお付き合いし続けてたら、毎日盛っていたら、二人とも留年へとまっしぐらだったろうからな!


そんなこんなで、今や腐れ縁になりつつあるんだが、何故か、クリスマスイブだけは歩海からデートに誘われて、食事の後、予約したホテルへと連れ込まれたりするんだよな。

初めての、一年生の時のクリスマスイブに、誘われる理由を聞いたんだが、


『だって、寂しいじゃないのよっ!』


だそうです。


あと、七夕に、年に一度の逢瀬だなんて言われて誘われたりしてたな。

それにホイホイと着いていく俺もどうかとは思うけど。


卒業まで、あと一年余り。

そろそろ学業にも余裕が出て来たから、今年のクリスマスイブには歩海にプロポーズしようと思ってるんだが、受けてもらえるかどうか、思いっきり不安しか無いんだよな。

歩海は、卒業の目処がつくまでは誰とも付き合わないと公言してるから。

今プロポーズしとかないと、誰かに取られそうだし。


指輪、お給料の3か月分でいいんだよな?

現役大学生の場合は、どうなるんだろうね。

家庭教師のバイト代3ヶ月分でいいのかな?

そうすると、生活費が……………………

予算、どうしよう?


あっ、指輪のサイズが、分からんっ!

今更、聞けないよな。

どうしよう?

プロポーズの後から、一緒に行って買えばいいのかな?

姉さんは、確か彼氏から指輪もらってたよな。

どういう手順だったか、今度、詳しく聞いてみよう!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る