第20話 約束の地 ①
「由紀さん、ちょっと初さんにメッセージ送りますね。」
一言断ってからスマホを取り出して、食後のコーヒーを添え付けのチョコと共に味わいながら、ショートメールを送った。
初さんはスマートウォッチでメッセージを確認したのか、こちらに振り向いて軽く頷いてくれたので、
「由紀さん、それでは行きましょうか?『約束』を、果たしに。」
「ええ、行きましょうか、『約束の地』に?」
「なんか、由紀さんの表現の方が、カッコいいですね?」
「……………………そんな事は………チョットだけ、あるかな?」
恐らくは、父はもう、『役立たず』だと思われるのでウエイターさんに会計をお願いしていると、
「聡一郎さん、由紀さん、こちらはお気になさらずにお過ごしください。」
「はい、初さん、ありがとうございます。父達は、もう、ほっときましょうか?」
「ええ、私も、もう引き上げますので。」
初さんが、僕達のテーブルに来てお声を掛けてくれたので、
「会計は、済ませておきました。僕達は、これから水族館に行ってきます。」
「お気遣い、ありがとうございます。お二人共、良い時をお過ごし下さい。では。」
二人でワインを二本空けて、追加でグラスワインも頼んでいたので、
「由紀さん、酔い加減は大丈夫ですか?」
「全く問題ありませんが、少しだけ支えて頂ければ嬉しいかな?」
由紀さんは、その小さな左手を差し出してきてくれたので、遠慮なく握りしめた。
エレベーターに乗り込み、5階のボタンを押して、誰も続けて乗ってこなかったので開ボタンから手を離した。
扉が閉まってから、
「聡一郎さん?最初から『恋人繋ぎ』とは大胆ですね?」
「……………………あっ、無意識のうちにっ」
指を絡めた手を反射的に離そうとすると、強く握り締められてしまった。
「ふふっ、駄〜目ですよ、離しちゃ。『約束』を果たすまでは、『約束の地』に着くまでは、離しませんからね?」
小さな、柔らかな、握ったまま軽く上下に振られたその手からは、意思の強さが、感じられた。
※※※※※※※※※※
「ええ、行きましょうか、『約束の地』に?」
「なんか、由紀さんの表現の方が、カッコいいですね?」
「……………………そんな事は………チョットだけ、あるかな?」
恥ずかしくなって目をそらして隣のテーブルを伺うと、初さんがお声を掛けてきたので聡一郎さんに対応をお任せして、少し飲みすぎたせいかボーッとしそうになる頭を軽く振って気を引き締めた。
「由紀さん、酔い加減は大丈夫ですか?」
「全く問題ありませんが、少しだけ支えて頂ければ嬉しいかな?」
自然な感じを装って、ドキドキしながら左手を差し出してみる。
聡一郎さんは、何の躊躇いもなく、指を絡めて握り締めてくれた。
エレベーターに乗り込み、扉が閉まってから、
「聡一郎さん?最初から『恋人繋ぎ』とは大胆ですね?」
「……………………あっ、無意識のうちにっ」
指を絡めた手を反射的に離そうとしてきたので、強く、ギュッと、逃さないように、握り締めた。
「ふふっ、駄〜目ですよ、離しちゃ。『約束』を果たすまでは、『約束の地』に着くまでは、離しませんからね?」
聡一郎さんからより強く握り返されたので、嬉しくなって、その握られた手を、強い意思を込めて、軽く振った。
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