第19話 お見合い ⑥
去年の秋の事。
私は、俊とデート開始直後に喧嘩して帰られてしまって、悲しくて、どうしようもなくて、クラゲの水槽の前で、座り込んで、泣いていた。
朝から、夕方まで、ずぅ〜っと。
ゆらゆらと漂うクラゲを眺めながら、やるせない感情を処理できずに、涙を流し続けていた。
今考えると、あんな奴の為に涙を流すなんて、なんて勿体無い事をしたんだろうと思うけど。
そんな、中でも、トイレには行きたくなるし、お腹も、すくんだ?
現金なもので、閉館間近でも開いているカフェコーナーでも行くかと、立ち上がって伸びをしていると、変なステップを踏んだ男の人と並んでしまった。
今から避けるのも不自然だなと思った私は、危ない人じゃなければいいなと思いながら歩き始めた。
その男の人は、チンアナゴの水槽の前で立ち止まり、変なステップで、変な舞を、踊り始めた。
あ〜、危ない人だったわ〜、無事に離れられてよかった!
そう思いながらも、カフェへ行くとゆう目的が何処かへ飛んでしまっていた私は、ぼ〜っとして、チンアナゴの水槽をながめながら、立ち尽くしていた。
突然、目の前に、カップが差し出されて、
「はいっ、奢りだよ!」
呆けた顔を合わせるのが恥ずかしくて、手先から足元を見ると、さっきの危ない人だとわかった。
「君、朝からずう〜っと、泣いてたでしょう?」
「…………………………………………」
「甘いものでも飲んで、元気出そうよ!」
「………………………………ありがと。」
この危ない人も、1日中、ここに、居たんだと、思いながら受け取って、一口飲んで、ほっと一息。
「じゃ、僕は行くねっ!」
「あっ、待って!」
「ん?どしたの?」
「あの…………………………ありがと?」
「お礼なら、さっき聞いたよ?」
「そうじゃなくて…………………………」
私、その時は、何を言いたかったのかよくわからなかった。でも、今ならわかる。それまでのモヤモヤした気持ちを晴らしてくれた彼と、もう一度、日を改めて会いたかったんだ。
でも…………………………………………
「約束して下さい!」
その時の私は、思い切って、声を上げた。
うわずって、変な声が出てしまっていた。
「?何を?」
戸惑う、危ない人改め、親切なひと。
勇気を振り絞って。
「縁があったら、また、ここで、お会いしましょう!」
「いいよ〜、『縁があったら』ねっ!」
本当は、すぐにでも『会う約束』をしたかったんだけど。
勇気が、足りなかった……………………あの時は。
恥ずかしくて、最後まで、まともにお顔を見ることも出来なかったけど。
今日なら、今なら言える。勇気を出して。
※※※※※※※※※※
「……………………恥ずかしいことを、思い出して、しまった!
由紀さんは、あの時ずぅ〜っと泣き顔でしたから、今日と雰囲気も含めて全然違いましたから気が付きませんでした。」
「聡一郎さん、ちっとも恥ずかしくないですよ?恥ずかしかったのは、泣き顔だった『あの時』の私ですよね?」
「……………………縁が、ありましたね?」
「……………………そうですね、ありましたね。約束、守って、くださいねっ?」
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