第7話「ただ一つ」

指導者が死そうとも、思想は生きる。

 バーグ・クーパー著 知らなくていい100の事より引用


「エドモンド、君には世界が見えているか」

「なぞかけでしょうか?」

「いや純然たる問いかけさ」


「私は世界を生きる場所だと認識してます」

「ほお、いい答えだ」


「先生は世界をなんだとお思いなのですか」

「フェイクだと思っているよ」

「偽物ですか?」


「ああ、人は真の世界現象に気付いていないのさ」

「つまりは?」

「あくまで人は現象に対して名前をつけただけであり、真の世界現象を言い当ててはいないのさ」


「また難しい事を言いますね」

「この交わす言葉さえ、全ては偽物、真に達してはいないのさ」

「だとすれば、人にとっての真実は何になるのですか」

「仮定だよ」


「仮定?」

「ああ、人が唱えた言葉は全て一時的な答えという事さ」

「なるほど、ではいつになれば、真の回答を得れるのでしょう」

「それは神にさえ出来ない」


「なぜでしょうか」

「世界には時間があるからさ」

「時間によって変化するという事ですか?」

「そうだ、生きる以上、変化する、だから完成されず真に辿り着く事は出来ない」

「ですが、言葉があれば、生きれます」

「だとしても、鵜吞みにしてはいけないよ」


「疑えと?」

「いいや確かめろというのが正しいね」

「確かに、私は言葉を確かめる事なく使っていました」

「それでは、先駆者の誤りに気付ないよ」

「先生は、どのように言葉を確かめているのですか」


「建前や偽善ではない言葉、自分から出る素直な言葉、もっと言えば直感した言葉だね」

「なるほど、では考えて出した言葉とは偽物に当たるのですね」

「考えとは、全て理想形にあたるのさ」

「なるほど、確かに、昔、論文を書くとき、美化していました」

「そうだね、人は自身を魅せる事で、生存競争をしているからね」

「では、直感を頼りに生きるというのは、生存競争に欠ける生き方ではないでしょうか」


「もちろんそうだ、だが、考えて得た答えと、自然と出る答えは、決定的に違う」

「というと?」

「考えて生きれば自ずと苦労するのさ」

「正直に生きることが、楽という事ですか」

「そうだね、慣れない生き方は自分を苦しめるだけだ」

「でも考えて知恵をつければ、関係も円滑に進むのではないでしょうか」


「どうだろうね、関係性を円滑にしようと画策するより、ありのままでいれた方が幸せだと思うがね」

「確かに、そうですね」

「エドモンド、人生には習う場面が多くある、だがね、その通りに生きなくてもいい、なんせ人によって答えはすり替わってるからね」

「では、私は、ただ一つが欲しいです」

「ただ一つ?」


「この世界で丸ごと信じていいただ一人が欲しいです」

「それはつまり」

「好きです」

「え?」

「大好きです」

「え?」


「先生、私は、自分と同じくらい信じられる、先生が欲しい」

「欲しい?」

「もう言わせる気ですか」

「まて、まだ結婚は早いぞ」

「違います」

「え?」


「私は、先生が欲しいんです」

「告白だろ?」

「違います」

「え?」


「私は、私が欲しいんです」

「そう言う事か」

「ええ」

「ならいい、私が、君の鏡になる」

「ありがとうございます」

「大丈夫さ、エドモンド、君はとても綺麗だ」

「直感ですか?」

「ああ、直感さ」

「フフ嬉しいです」

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