遠い記憶から永遠をここに

 回想はひとまずここまでにして、入手したCDをプレイヤーに入れてみる。


 遠くなった記憶のライブ。30年ぶりにその空気を感じる事が出来るはず。


 ヘッドホンをして、ボリュームを出来る限り上げる。その時の音までには至る事はないが、少なくても疑似体験は出来るだろう。そして演奏は始まった……。


 まず演奏されたのが、「夜、暗殺者の夜」。「”77ライブ」でも最初に演奏されている曲。裸のラリーズにしてはリフが比較的ポップな感じで聴きやすいとは思う。

(あくまでラリーズとしてはであるが)

 その為、最初に演奏される事が多いのだろう。


 後から知ったのだが、印象的なリフは、実は60年代にヒットしたポップスであるリトル・ペギー・マーチの 『I will follow him』という曲の冒頭に酷似しているとの事。この曲は映画『天使にラブソングを』でもカバーされていたので、何処かで聴いて印象に残っていたのかもしれない。


 演奏の最初の部分は、機材の調子が悪いのか、ちょっとちぐはぐな部分もあった。しかしながら曲が進むにつれて本来の調子になってきたようだ。水谷さんのギターも縦横無尽に唸り始める。


 水谷さんのボーカルであるが、決して上手いとは言えないと思う。別に特別な技術とかあるという事はない。抑揚が強いという事もなく淡々と歌われる。

 しかしながら、ラリーズの曲には水谷さんの声でないとダメだと思う。それくらいしっくりとくるのである。


 (余談ながら、キングオブノイズの異名を持つJOJO広重さんが率いる非常階段というグループと初音ミクがコラボした初音階段が、裸のラリーズの曲をカバーした事があったが、初音ミクのボーカルはラリーズとはまるで合わないと思い、自分では拒否反応を示した)


 淡々としながらも冷たさは感じられず、寧ろ温かみすら感じさせる。柔らかさも受け取れる事からもアナログ的と言うべきか。熱心なファンの中には水谷さんのボーカルを玉音と言う人もいるが、案外この表現が的を得ているかも知れない。


 そして水谷さんが引くギターからは、暴力的ともいえる音が響き渡る。床の上には、沢山のエフェクターやファズ、デュレイやワウワウ等が並んでいる。会場の音響や雰囲気、空気を見て自分に納得出来るように調整していく。それは水谷さんならではの匙加減だ。

 まるでジェットエンジンの中にいるようだと表現された事もある圧倒的な音圧。

 一般の人なら2分と保たずに逃げ出すだろうギターノイズの嵐。だがそれがいいのだ。


 演奏している背後からは、ストロボの光が光り続けている。小さい子供なら倒れかねない位だ。まだ1曲目の段階では、フラッシュはそれ程強くはなかったと思う。曲が進むにつれ、フラッシュも激しくなるのだが、この段階では想像もつかなかった。

 以前に行われていたライブでは、スクリーンを設置してライブの最中に映像を映していた事もあるとも聞いた。今回は無いのが残念だ。


 2曲目は「黒い悲しみのロマンセ」。あれ?この曲は2曲目ではなかったと思ったのだが。編集してあるのか?


 実はラリーズは活動期間が長い割に作られた曲は少ない。30曲程度しかないと言われている。ライブで演奏する曲に関しては、更に曲数も限られてくる。

 その代わり、同じ曲でもアレンジが大幅に違ったり、歌詞が全く違ったりしている事も珍しくないので、曲は同じでもライブ毎に印象がまるで違ってくる。その点は、フリージャズに近いかもしれない。


 水谷さんのバックで演奏されているリフは単調なものだ。しかしながらしっかりと演奏されて水谷さんの演奏を支えている。ギターもベースもドラムも自己主張はしない。ソロパートも演奏しない。ただバックを忠実に支えている。これが裸のラリーズのスタイルだ。

 そして単調なリフであるが1曲が長い。だいたい10分ぐらいはある。短い曲でも5~6分、長い曲では30分以上になるものも。


 3曲目にCDに書いてあるタイトルは「夜の収穫者たち 1993」あれ?この曲は当日は演奏されてないよな?何だかわけがわからなくなってきた。


 非公式であるが裸のラリーズの有力なサイトでセットリストを確認したら、


 1 夜、暗殺者の夜

 2 永遠に今が

 3 黒い悲しみのロマンセ

 4 白い目覚め(暗黒が帰って来る~紙切れ)

 5 記憶は遠い

 6 Enter the Mirror

 7 The Last One


 となっている。これが正しいとは限らないが。リマスターは元メンバーでもあり、夕焼け楽団でも有名な久保田麻琴さんがやっているはずなのに、その辺はどうなっているのだろうか?


 3曲目の曲は実際のライブでは2曲目に演奏されたのであろう。曲の流れ的には、次の曲にすんなりと繋がる感じなので、聴きやすいのはこの方かもしれない。

 単純なリフが続く中、縦横無尽に飛び回るように感じる水谷さんのギター。

 フラッシュが光り続け、あまりの眩しさに直視は出来ない。耳には凶暴なギターが襲ってくる。ヤバい、意識を持っていかれるかもしれない。そんな演奏が続いている。


 そしてCDは4曲目の演奏へと繋がっていく。当日のライブで一番印象的だった曲。CDでは「Darkness Returns」と表記されている。正確なタイトルはもうわからないだろうが、当日、一番長い時間演奏された曲だ。

 フラッシュが眩しく、ステージは直視出来ない。耳には限界に近い爆音のギター。

 眼を瞑ると意識が飛びかねなかった。文学的な歌詞は時折聞こえてくるものの、はっきりとは聞き取れない。脳の処理能力が許容範囲を超えている感じで、ただ爆音のギターの海に身を任せるだけ……。確かに当日はそんな感じだった。


 この曲の演奏は30分程だったのだが、その時はこの時間が永遠に続くのではと感じていた。この演奏が終わった後の隣の客の言葉がとても印象に残っていた。


 『気持ちよかった……。〇〇かいているみたいだった』



 ここまでで1時間以上の演奏なのだが、残念ながらCDはここで終了だ。いくら8チャンネルのデジタル・マルチトラックが残っているのがこの4曲のみとはいえ、途中で終わるのは気分的に良くない。確かに発売前のインフォメーションでわかっていた事であるが。やはりラリーズのライブは、「The Last One」を聴かないと終わった気がしない。しかしながら発売されているのはここまでだし。どうしても、もやもやした気分が晴れない。


 この気持ち、どうしたらいいのだろうか?



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