1993年2月13日 吉祥寺バウスシアター

 1993年2月13日。おそらく天気は雨だったと思う。

余分な話であるが、雨の日に見に行ったライブは、

自分が満足する素晴らしいものが多かった。

自分にとってのジンクスという程でもないが……。


 吉祥寺に行くのは初めてではないが、あまり行き慣れていない場所だ。

(後になって吉祥寺にある某ライブハウスが行きつけとなるのだが)

そして自分は地図もろくに読めない方向音痴だ。

 その結果は当然ながら道に迷った。自慢できるものではないが。

あっちこっち彷徨い続ける。場所は見つからない。

開演予定時間は刻一刻と迫っている……。

時間には余裕を持って吉祥寺には着いたつもりだったが、少々焦って来た。

 仕方ない、人に聞くのは得意じゃないけど、誰かに聞かないといけないのか?

そんな事を思っていた時、何か違和感を感じたのだった。


(何だろう?言葉に表現が出来ないけど、何か空気が違う気がする)


 別に自分は霊感など持っていない。それどころか空気も読めない鈍感男だ。

そんな自分でも感じている違和感。それが何なのかはわからない。

?と思っているうちに人が多く集まっている場所が見えた。


(ここが会場の吉祥寺バウスシアターか…)


 何とか開場予定時間に間に合った。うん、よかった。一安心。

そして周りを見渡してみた。


(一見、普通の人に見えるけど、一筋縄ではいかない人が集まっているような……)


 昔から『ラリーズを見てきたぜぇ』とも言わんばかりの年配の人もいるのだが、

(これはもう一筋縄でいかないのがすぐ分かった)

意外と若めの人が多かったように思えた。もちろん自分もその一人だが。

でも普通のライブ会場前の集合風景とは明らかに違う空気がする。

 中には女性もいるのだが、圧倒的に男性が多い印象だった。

何と表現したらいいのかわからないが、

ここにいる人が皆、独特のオーラを放っている。

そうとしか言いようがなかった。


 ほぼ開場時間となった時、バウスシアターの中へ誘導されていった。

特に番号もなかったと記憶している。

到着が遅れた分、入場も後の方だった。


 中に入ると、既に照明が抑えられて暗かった。

そして天井には、ラリーズのライブでは欠かせないミラーボールが

光を放ち回転している。

もしかしたらお香とか炊いていたかもしれないが、

当時の自分は鼻が悪かったので確認は出来なかった。


 席は自由席だった。既に大半の席が埋まっていた為、

丁度いい席を探すのに一苦労した。会場の中が暗いから実に探しにくい。

 幸にして、ステージの中央近くの、やや後方の席を確保出来た。

後はライブが始まるのを待つだけである……。


 普通のライブならそうであるが、ラリーズは違う。

何せ定刻通りに始まる事はない。

30分待つなら早い方。時には1時間以上待つ事もあると、

何かの記事で見た事があった。

当然ながら、この時も定刻通りには始まらなかった。

 いつ始まるのだろうか?少しずつ緊張してくる。


 しかしながら5分待つ。始まらない……。

10分待つ。始まらない……。

15分待つ。始まらない……。

本当にライブが行われるか不安になって来る。

 会場の独特な空気感も、少々イライラしているだろう

と感じられる部分が出てきている。そう感じていた。


 これが頭脳警察のライブだったら、定刻になっても始まらないと

「PANTA出てこい!」

っていう叫び声がチラホラ出てきて殺伐とした空気になる。

うん、同じアンダーグラウンドな存在でも少々違うものだ。

 ラリーズのファンはそこまでの空気にはならない。

開幕が遅くなるのはお約束と認識しているからだろうか。

そんな事を考えながら待つ。ひたすら待つ……。



 どれくらい待っただろうか……。



 ようやくメンバーの姿が見えてきた。

ゆっくりと演奏の準備をしている。

しかし大きな歓声などない。

観客はライブが始まるのをじっと待っている。


 準備が整い、ようやくライブが始まるようだ。



 裸のラリーズによる時には騒がしく、

時には耽美的な「夜」の世界が、今始まった。


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