もう二度とこの「夜」は訪れない~Les Rallizes Dénudés~

榊琉那@屋根の上の猫部

裸のラリーズについてのあれこれ

 あの夜から30年……。公式レーベルからある作品が発表された。自身が初めて体験した幻想と幻惑の一夜の記録。裸のラリーズの90年代初の復活ライブのCD化の事である。

 自分にとって忘れられない一夜となったライブ。それが永遠に手元に残るのはありがたい。しかも初回盤には当日の映像を収録したDVDも付属するとか。それはそれで嬉しいが、当日のライブの凄さを全て網羅したわけではない。

 では当時の演奏のCDを聴きながら、朧気ながら覚えている、しかしながら一生忘れる事のない鮮烈な体験の事を振り返ってみたい。


 裸のラリーズというグループは水谷孝さんを中心としたグループで、常にアンダーグラウンドの底に存在していた。すでに60年代にグループは存在していたが、その時からジャンルに分類出来ない独特の音楽を演奏していた。ヒット曲とは真逆になる重さを感じる音。文学的な香りのする歌詞。当時、同類と出来るものはジャックスぐらいだろうか。


 そして日の当たる場所に出る事が出来ないだろう理由もあった。元メンバーが日本の犯罪史に残る事件の当事者でもあったからだ。この事もラリーズがアンダーグラウンドの帝王とされる伝説めいた存在となる理由ではないかと。


 時折ライブは行うが、公式な音源は一切残してこなかった。いや唯一の例外は、あるライブハウスの閉店を惜しんで制作されたオムニバスアルバム。それにラリーズの音源が収録されている。自主製作盤であったので、後にプレミアが付くくらいの入手困難盤になったのは言うまでもない。それも伝説に拍車をかけた要因であろう。


 それが90年代に入り、突如3タイトルの音源が発売された。これは大きな事件であったのはわかる。しかしながら、当時の自分には購入する余裕などなかった。いや正確に言えば、同時期に発売された贔屓のアーチストのボックスセットが発売されていたのだが、当然、そちらを優先した。いくら日本のロック界最大の伝説と言われている存在とはいえ、全く聴いた事のない未知の存在に大金をかけることは出来なかった。今のようにYoutube等があれば確認してすぐ購入しただろうが、携帯もネットも普及していない時代、それは仕方のない事だろう。


 携帯やネットが普及していない時代ならではのエピソードも。裸のラリーズの中心人物(いやラリーズそのものか)の水谷孝さんは、日本一コンタクトを取るのが難しいと言われていた。何より水谷氏は当時、パリに住んでいたという。

 ある音楽雑誌は、公式盤についてのインタビューの為、水谷氏と延々と8時間以上も東京とパリの間でFAXのやり取りをしたという伝説もあるくらいだ。


 結局、3種類あるうちの77年のライブ盤2枚組は入手出来た。しかしながら、残りの2種類はすでに市場から消えていた。元々自主製作盤なので、販売されている所は限られていた。

 一生悔いが残る失敗だったと思わせたのが、後年になって異常なプレミアがついた事とわかった時だった。やはり無理をしても買っておくべきだった。その後、ラリーズのビデオが発売されたが、高額にもかかわらずすぐに入手したのは言うまでもなかった……。


 幸運にも入手出来た77年立川でのライブ盤を聴いてみた。帯に執拗に書かれているOVER REVELの文字の大群が成程と思える音の歪み。暴力的と言える音の塊。やはり光の世界に出てはいけないグループだと改めて認識した。そして、やはり無理してでも全てのCDを買うべきだったと、もう一度後悔。裸のラリーズは特別なグループとなったのは言うまでもない。


 時は流れ、あれから数年後、裸のラリーズがライブを行う事を知った。

 最後にライブを行ってから、実に5年ぶりのライブだという。その当時、自分にとっても忙しい時期だったが、そんな事は関係ない。


(生で演奏するラリーズを見たい)


 ただそれだけを思っていた。後悔するのはもう御免だ。

 そしてチケットを購入し、ライブの日を待っていた。それまでに予習として、77年のライブCDを繰り返し聴いていたのは言うまでもない。


 そして、運命の日である1993年2月13日を迎えたのであった。

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