第11話
「な、なぜそのようなことを言うのですか。私は、この家に生まれ、特殊能力を持って……。周りから期待されているんですよ! なのに、何故貴方にそのようなことを言われないといけないのですか!」
「能力のことを言っているのではない。ぬしの根本が、今の仕事に向いていないと言っているのだ。それは、我を最初に襲った時から膨れ上がっておるように感じる。いや、我がぬしを見るようになったから、目につくようになったのかもしれぬな。元々、向いていなかったのじゃろう」
今までそのようなことを言われてこなかった静香にとっては衝撃的な言葉。
静江や女中から言われてきた言葉とは逆な言葉を言われ、静香は心がすぅーと冷たくなる。
自分には、この仕事は向いていない。そうだとしたら、自分が今まで行ってきた修行は何だったのか。何のために血反吐を吐いて頑張ってきたのか。
今までのすべてを否定されたように感じ、静香は歯を食いしばると闇が風呂がる瞳で万葉をにらに付けた。
刹那――…………
――――――ドンッ!
「おっと……」
目の前に立つ万葉を力任せに押し、静香は今まで出したことがないような大きな声で叫んだ。
「そんなこと、最近で出会ったばかりの貴方に言われたくありません。出て行ってください!!」
「しかしのぁ。我はっ――」
「出て行ってください!! もう、貴方の顔は見たくありません!!」
静香が大きな声を出したことにより、人の気配が近づいて来るのを感じる。
おそらく、道標家に雇われている女中達が異変に気づき、慌てて走ってきているのだろう。
このままでは見つかってしまう。そう思った万葉は潔く身を引き、ここから姿を消そうと振り返った。
「最後に言っておく。ぬし、そのままでは
それだけを言い残し、襖が開く直前で、風と共に万葉は姿を消した。
「お嬢様! 大丈夫ですか!」
女中がずらずらと部屋へと入り込む中、静香は万葉のいた場所を見つめるのみで何も口にしない。
問いかけられても、心配の声をかけられても。静香は黙秘を貫いている。
彼女の黒い瞳は揺れており、表情は苦悩で歪められる。
今にも泣き出しそうな顔を浮かべている静香の背中を、女中は撫で母親である静江を呼びこの場は何とか収まった。
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深夜、鬼を見つけるため、静香はいつものように和傘を持ち闇の中を気配を消し歩いていた。
万葉からは結局、情報を聞き出す事が出来なかった為、静香は半ば諦めながら歩いている。
「はぁ……」
静香は静江から言われていた人食い鬼探しを行っているが、頭の中は万葉とのことばかり。
屋敷での出来事が頭の中を巡り、後悔の念が渦巻いている。
胸に引っかかる何かを無視し続け、静香が闇の中を歩いていると、突如光が注がれた。
上を向くと、月明りが顔を出し降り注いでいたことに気づく。
「雲によって隠れていた月が、顔を出したみたい。少し、動きにくいわね」
闇の中で目標を見つけ、誰にも見つからず一瞬で仕留めるのが静香のやり方。そのため、月が雲から顔を出している時は行動しないようにしていた。
だが、月明りが降り注がない日を狙っていても、今回のように途中で出てきてしまう事も度々あったため、焦る事はなく冷静。見上げていた顔を下げ、前を見て足音と気配を消しながら歩く。
「…………気配すら何もないわね。今夜は現れないのかしら」
足を止め、後ろを振り向くが何もない。
万が一、万葉が現れでもしてくれたら、と。自然と浮かぶ思考をかぶりを振り消し去り、また前を振り向く。
歩き出そうと顔をあげると、目の前には赤い瞳と赤い髪。
一瞬、万葉かと思ったが、気配が違う。目つきも、表情も。何もかも違う。
「な、何者!」
慌てて和傘を畳み、横へと薙ぎ払いながら後ろに跳び、距離を取る。
前に立つ鬼は、「くっくっくっ」と喉を鳴らし、赤い瞳で静香を見た。
「マイ付けた、見つけたぞ。前回は
鬼の纏っている気配、微かに漂う血の匂い。
前回、男を一人燃やした時に現れた鬼だという事を思い出し、静香は冷や汗を滲ませた。
先手を取られてしまい奇襲が出来なくなり、前から挑まなければならばくなってしまった。
だが、戦闘技術も普通の人よりは高いと静香は自身を鼓舞し、いつものように和傘を構える。
ここで見つめ合っていても、精神的に削られるのは静香の方。黒い瞳で見つめ、地面を蹴り駆けだそうとした時、後ろから子供の叫び声が聞こえ思わず振り返った。
「っ、なぜ。こんな深夜に子供が………」
静香の後ろには、小さな子供二人が、涙を流し怯えながら立っていた。
手には水を入れるための桶。水を汲みに行こうとしたのは明白だった。
「早く、ここから逃げなさい!」
子供達に叫ぶが、それより先に鬼が動き出してしまった。
静香の隣を駆け、子供に襲い掛かる。
――――――守らなければ、私が絶対に!!
静香は歯を食いしばり、髪に付けていた簪を取り、鬼に向けて放つ。だが、焦っていたためか、軌道がそれてしまい掠った程度になってしまった。
頬を掠り、血が流れ出る。鬼は子供の目の前で足を止め、切れてしまった自身の血を手で取り、見下ろした。
「まさか、我に傷をつけるなど、人間如きが」
怒りが鬼を包み、殺気が強くなる。
今まで向けられたことのない気配に、静香は体を大きく震わせた。
和傘を持っている両手は震え、体に力が入らなくなる。
ゆっくりと振り向く鬼を目にし、静香は悟った。
今夜、燃やされるのは自分だと――――――
鬼が地面を蹴り、静香へと鋭く光る爪を振り上げた。
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