鬼との出会い

第2話

 数十年続く、怨みを取り除く祓い屋、道標どうひょう家。

 緑に囲まれている和装建築の大きな建物に、太陽光が注がれる。風により建物の周りに咲き誇る、様々な華が踊るように揺れていた。


 大きな建物の中、一室に一人の女性が赤い着物を身に纏い正座している姿。横には和傘が置かれ、黒い髪は簪によりかき上げられていた。


 女性の名前は道標静香どうひょうしずか。冷然の姫と呼ばれ、その言葉のように黒い瞳は冷たく、表情は無、そのもの。

 小さい頃はよく笑うかわいい子であったが、親から祓い屋の仕事を受け継ぐように言われ始めてからは、感情を我慢し生活していた。


 今も表情一つ変えず、呼ばれた一室に正座している。

 彼女の前には静香に似ている女性。黒い地に紫色の牡丹が咲き誇る着物を身に纏い、黒く長い髪は後ろでお団子にまとめていた。


「静香、今回は少々、難しい恨みを祓っていただきます。いいですね?」

「私はどのような依頼でも、迅速に解決して見せます。何なりとお申し付けください」

「それでこそ、私の娘です。では、早速ですが、本題に入りますね」

「よろしくお願いします」


 こんなの、親子の会話ではないな。そう思いながらも、静香は頭を下げ目の前に座る母親、静江しずえの話に耳を傾けた。


「今回のご依頼ですが、相手が人ではないのです」

「っ、人ではない? それは比喩表現なのでしょうか」

「いいえ。今回相手にするのは人ではなく、”鬼”です」


 鬼という言葉に首を傾げ、静香は詳細を求めるように静江を見る。

 彼女の視線を受け取り、周りにいる女中に指示。すぐさま動き出し、静香に一枚の紙を渡した。


「こちらを見なさい」


 受け取った紙には、鬼についての詳細が書かれていた。


 何故"鬼”が人から恨まれるようになったのか。鬼とは一体何なのか。どのように倒す事が出来るのか。

 今回、どのような動きをして相手をか考えながら、紙の隅々まで読み進める。

 表情は一つも変わらず、一通り読み終わった。


 人を相手にするのと変わらない殺り方しか書かれておらず、静香は拍子抜け。自然と肩に入っていた力が抜けた。


「こちらの鬼は、夜に出歩くことが多く、赤い髪が特徴。もう、人を何十と食い殺しており、本来でしたら静香一人にお願いできるものではありません。ですが、受けてくださったのが私達、道標家のみとのこと。協力など呼べないかもですが、大丈夫ですか?」

「はい。今回も、私の炎により塵とします」


 静香には、生まれながらに特殊能力を持っていた。 

 それは、業火の炎を手から出す事が出来る。


 この力が出現したのは、静香の十の誕生日。大事な友人が危険な目に合っており、感情のままに助けに入ろうとした際に出現した。

 手から燃え広がる炎で、友人を襲おうとしている相手を燃やしてしまった娘の姿を目にし、静江は静香の力に目を付け祓い屋を大きくしようと企て、今に至る。

 その時から、静香は考えるのをやめて、自身の行動を全て静江にゆだねるようになってしまった。


 静香は何も疑問を持つことなく、詳細が書かれている紙を静江に返し、静香は今回の依頼もいつものようにすれば終わると、鷹を括る。


「では、いつものように、お願いしますね。私の、実の娘、静香」

「はい。道標家の名に恥じない動きをして見せます」


 再度頭を下げ、次に上げた時の彼女の漆黒の瞳は、濁っていた。

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