第27話

 いつもの河川敷のグラウンド、三限のスポーツビジネス論が休校になりお互い二限で講義が終わったため他のメンバーより早く到着したのだ。


 慶凛大に勝つための作戦としてまずしつこいくらいの挑発に乗らないことだとりかこは言う。


「いいあいつらは中傷的な言葉でこっちのペース乱してくる意地汚い連中なのよ。だからこっちが逆手に取ってやるの」


「と言うと?」


「これよ」


 りかこは硬球の縫い目に指をかけストレートの握りを見せた。そして指一本分右にずらせて中指と薬指で縫い目にかけた。


「この握り方でストレートと同じように腕を振れば力が指に入らない分スピードが落ちて打者のタイミングをずらすことが出来る。打ち気満々の慶凛大には有効的な武器になるわ」


「チェンジアップですか」


「そぉね。まぁさっそく投げてみなさい」


 どこに売っていたのか分からない左用のキャッチャーミットをパンパン鳴らしブルペンで構えるりかこは未知なる一投を待っている。久留実はとりあえず言われた通り思いっきり腕を振って投げてみたがボールは明後日の方向へ勢いよく放たれブルペンを越え川にポチャリン。すぐさまりかこがとんできて頭をポカリン。


「ふざけてんの。新球一個いくらすると思ってんの」


「す、すみません。ほんとすいません。私不器用で変化球とか投げたことなくてとういうか投げれないんです。りかこさんには簡単でも私には難しいんです」


「どんだけ不器っちょなのよ! ただ腕振るだけじゃない。これが出来ないでどうすんの」


「どうしましょう」


 頭を抱えるりかこは計画が狂ったと地団駄を踏んで空を仰ぐ。


「なにやってんですかりかこさん」


 ユニフォームの姿でグラウンドに現れたのはあんこだった。そういえばあんこも三限同じだったな。


「咲坂に変化球を伝授してんの」


 へぇ~と頷いて目を輝かせる。


「久留美ちゃんのストレートに変化球が加われば無敵だね」


 無邪気に笑うあんこは人の気も知らないではしゃぎだす。りかこも久留実をからかうように先ほどの出来事をあんこに教える。さすがにいい気はしない。


「私もためしに投げてみたいなぁ」


「あんたに投げられるの?」


 りかこはポケットから新しいボールをあんこに手渡すと握りを教えた。久留実の時より要点を省いてただ投げなさいというだけだった。


 さすがにこれだけで投げられるわけがないと思っていたがあんこは難なくブレーキのかかったチェンジアップを投げてしまった。


 しかも投球フォームも教科書のお手本のように綺麗なフォームで久留実やりかこを驚かせた。


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