第28話
「こんな感じかな」
首を傾げるあんこに怪訝そうに睨むりかこ。そしてピッチャーのプライドをかち割られた久留実。
「咲坂。こういうやつが稀にいるのよ。なんでも出来ちゃうやつ、だから……気にしないで」
その優しさが心にぐさりとささる。せめて嫌味を言って欲しかったと切実に思う。
「もうピッチャー辞めようかな」
「それは困りますぅ」
リクルートスーツを身にまとい颯爽と登場したのはただいま絶賛就職活動中の真咲だ。
「真咲さん就活は済みましたか?」
りかこの質問に親指を立てて応える。どうやら順調らしい。
「たいぶ難航しているようですねぇ」
「そうなんですこの娘、意外に要領悪くて」
「ひどーいりかこさん、久留美ちゃんはなんでも努力すれば出来る娘なんです。ただ人より時間がかかるだけです」
お前が一番ひどいよとあんこを横目でけん制したが彼女に悪気はないし、事実を言っただけだから怒りの矛先を向けようがない。
「久留実にはあの秘球があるじゃないですかぁ」
真咲が思い出したようにいうとあんこは興味心身で「なになに」と尋ねてきた。はてそんなものあったっけ?
「ピンときてないようですね。ほら一昨日の練習終わりに美雨ちゃんとソヒィーちゃんと三人でジュースをかけたミニゲームやってましたよね?」
そういえば一昨日の練習後に上級生たちと帰りのジュースをかけたボール入れゲームをしていた。ひとり持ち球十球でホームベース上に置いてあるかごにマウンドから投げて何球はいるかを競うという内容だ。
かごに入れるためには高い位置から落として入れるしかない。つまりこのゲームの必勝法は正確な山なりボールを投げることだった。簡単そうに見えるがこれが意外に難しい。
力のさじ加減が慣れるまで検討がつかないところにボールがいってしまう為、十球の中でいかに感覚を掴むかが勝負の分かれ目になる。
「私が見たところ美雨ちゃんが二球、ソヒィーちゃんが三球、久留実ちゃんが七球入ってましたよね?」
「はい、昔おじいちゃんにコントロールの練習法といわれてマウンドから山なりボールをストライクに投げる練習をしていたものですから割と早く感覚が掴めたんです」
「咲坂それは使えるかもしれない」
「はぇ」
りかこは閃いたように私の体を掴みそのまま揺らした。
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