第25話

 朝練になった、昨日の夜ラインで練習時間が変更になったのだ。というのも四年生の真咲が就職活動で三年生も就職セミナーがあり放課後の練習に支障をきたすというものだった。


 そのため五時五十分の電車に乗るために朝の五時に目覚ましをセットして眠りについた。までは良かったのだが起きたのは六時五分。電車はもう出た後だった。七時集合なのに五分で準備して家を出ても次に来る電車に間に合う保証はない。父のいる寝室に走った。ドアを乱暴に開けて強引に体の上に飛び乗る。ぐふううぅ。父はそう唸ると目を覚ました。


「お父さん助けて」


 娘の悲痛の叫びに父は飛び起きて何事かと急いで枕もとの眼鏡をつける。父の視界に映ったのは半泣きの娘だ。


「なにがあった」


「寝坊した。車で駅まで送ってぇ~」


 父は時計を確認すると勘弁してよといいながら寝巻きのまま車のエンジンをつけに行った。慌てて乗り込むと車は勢いよく発進した。


「その河川敷のグラウンドはどこにある住所とか分かるか?」


 住所を調べて父に教えるとカーナビに入力した。どうやら最後まで付き合ってくれるらしい。


「まったくお前もお母さんによく似て朝に弱いなぁ」


 たしかに母は、あれだけ寝室でどたばたしていたのに気持ちよく寝息を立てていたし起きる気配がなかった。


「ごめんねぇお父さん」


「その困ったときに語尾を延ばすところもお母さんそっくりだ」


 河川敷のグラウンドに着いたのは六時五十分だ。危ない、危ない。遅れたらりかこに何を言われるか、想像しただけで恐ろしい。


 久留実は父に今世紀最大の角度で頭を下げて感謝の意を表した。父は笑いながら手を振ると来た道を颯爽と戻っていく。グラウンドにはすでに上級生たちが来ていた。挨拶を済ませ真咲の前に集合する。


「上級生の都合でごめんなさぁい。一時間集中してやれば濃い練習はできるから今日は守備をメインにやりましょう。各自アップを済ませキャッチボールの後に野手はシートノックに入りましょう。りかこちゃん、久留実ちゃんもノックに入ること。ノックが終わったあと野手はノルマの三百スイング。投手はランメニューをこなすように、さあ行きましょう!」


 よーし。


 かけ声と共に走り出す。久留実はりかこに声をかけた。


「りかこさん。慶凛大についてなんですけど」


「分かってる慶凛大の対策でしょ。土曜日までにたたきこんであげるから覚悟しなさい」


 それだけ言うとりかこはダッシュして遠くに行ってしまった。

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