第24話


「久留美なんか最近ホントに楽しそうだな」


 父の誕生日会が終わってリビングでまったりバラエティーを見ているとお風呂上りの父が話しかけてきた。上半身に服をまとっておらず下っ腹が出てるのがよく分かった筋肉質だった昔の面影をすっかりなくした姿に母は呆れている。


「お父さん鍛えたらいいのに」


「勘弁してよ、あ、風呂あいたからどうぞ」


「いやいやおっさんのあとの湯船につかれないでしょ」


 父はため息をついて冷蔵庫の麦茶をコップに注いだ。


「昔はお父さんっ子だったのになぁ」


「いつの話してんのよ」


 父は隣に座ると白々しく視線に入ってきた。うざかったので睨んでやったら父はエルボーガードを持っていて思わず「えっ」と声を上げる。


「打席入るとき肘守るのに必要だろ」


「なんで野球やってんの知ってるの」


 父は笑っている。何でもお見通しだよって言いいながら。母にそれとなく野球を始めたと言ったが父にはなにも言っていなかったし最近仕事も忙しそうで帰宅する時間も夜遅いから分からないと思っていたのに。


「日曜日、こっそり試合を見にいったんだ。久留美がベンチから声を出しているのを見て楽しそうに感じたよ。じいちゃんが死んでから元気なかったから父さん安心してな。ピッチャーやるんだったら肘のガードはいるだろう今日スポーツ店で買ってきたんだ」


「もうこそこそ見るんじゃなくて堂々と見ればいいじゃん。しかも日曜日は投げないから私。でもまぁ、ありがと」


 父から顔を背けた。なんとなく父の顔を見るのが恥ずかしかったからだ。


「まぁ頑張んなさい。志は高く、目標は低く。これ父の格言」


「意味わかんない」


「分かってたまるかよまだ二十歳にもなってない小娘に」


 シャワーを浴びてからおやすみと言って二階に上がった。父からもらったエルボーガードをさっそく装着して構えるとなんだか強打者になった感じがした。今ならソヒィーさんのように打てる気がする。明日はノースローでランニングがメインになるがバッティング練習がないわけではないし一応打席には立つし持っていこうとエナメルバッグにエルボーガードをしまった。

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