第23話

 バッティング練習が終わるともう陽が落ちかけていた。照明をつければまだできるがリーグ戦期間中はけが防止のため全体練習はこれで終わりだ。ノック、バッティングとシンプルなメニューながら状況や判断の確認をしながらやっているととても疲れる。今までの野球がいかに何も考えずただやってただけのものだったか実感する。


 久留実は家の用事があるため自主練習もほどほどに球場をあとにした。といっても父の誕生日を祝って外食するという用事で私は練習したかったが家族の決定事項、家族の誕生日は家族みんなで祝う。を破るわけにもいかない。


「くるみ今帰り?」


 バス停に向かう途中、翔子と一緒になった。翔子はこれからバイトらしくいつものチームジャージではなく女子大生らしい服装で汗の匂いを隠すためにいつもより多く制汗スプレーを体にかけていた。


「翔子さん少し聞いてもいいですか?」

「どうしたの?」

「りかこさんと慶凛大ってなんかあるんですか?」


 う~んと唸る翔子はこれ言っていいのかなと悩んで少し自問自答したあと口を開いた。

「慶凛大には私やりかこと高校が同じだった右の本格エースがいるのよ」


「本格エースですか」


「そう。名前は鳴滝美香子。去年の秋のリーグ戦で創世大の如月より三振を奪って奪三振のタイトルを取った逸材。そして勝ち点は逃したものの唯一慶凛大は創世大に一勝している。その原動力がりかこ因縁の相手ってわけ」


「でも慶凛大はいつもBクラスでうちよりも弱いんじゃ」


「順位から見ればね。だけど慶凛大のポテンシャルは高いよ、勝ちたいって気持ちが強すぎるのだからラフプレイが多く審判に悪態ついていろいろ損してる、狂犬のように誰でもかみつく手ごわい相手なのは確かよ」


 翔子と久留実はバス停に到着するとちょうど駅までのスクールバスが停留所に現れた。運転手さんに頭を下げてバスに乗り込んだ。


「慶凛大戦はくるみが先発だからきっとプレッシャーを凄くかけてくると思う。だからりかこからいろいろアドバイスをもらうといいわ。あの子は勝気な性格だからめんどくさいこともあるけど野球に対して真面目で努力家よ」


「分かりました」


 今日は七時前には家に着くから父の誕生日プレゼントを買いにいける。最近肩がこるとか言っていたからシップでいいか。


 久留美は安上がりだなって笑われそうだけどまぁ許してもらおう。そう思った。


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