VS慶凛大学

第22話

  港経大と駿台大から勝ち点を奪い幸先のいいスタートを切った。月曜日は男子硬式野球部が練習休みの日で学校の広い球場を使用できる。いつもの河川敷のグラウンドより設備も道具も揃っているため効率のいい練習ができることもあって皆一様に張り切っていた。 


「真咲さん。慶凛大学戦の初戦は私に行かせてください」


 声の主はりかこだった。二十球程度の投げ込みが終わりレフトポールからライトポールを往復するランニングメニューをしていた久留実はブルペンに入って翔子のボールを受ける真咲にノースローメニューで野手の練習に交ざっていたりかこが直談判をしているところを目撃した。


「予定通り久留実ちゃんを先発させて行ける所まで行かせますぅ、りかこちゃんはファーストで起用しますよ、だからいつでもいけるように準備しておいて欲しいですぅ」


「しかし、慶凛大はどうしても……」


「あなたはこのチームのエースです。その力はマウンドで投げるだけじゃなくて精神的支柱としてグラウンドに置いておきたい。それに勝ち点を取るためにはりかこちゃんのバッティングが必要ですよ」


「分かりました。バッティング練習に戻ります」


 りかこは不服そうに顔をしかめていたがバッティングゲージに入るとマシンの球を鋭く打ち返していた。広角に打ち分けるソヒィーとプルヒッターの真咲に加えりかこも非凡なバッティングセンスがある。


「久留美ちゃーん師匠たちがバッティング終わったら次私たちが打っていいって」 


 外野を守って打球を捕っていたあんこが誘いに来た。一年生ながら抜群の身体能力で何でもそつなくこなすあんこは二試合で五打数二安打と二番バッターとしての仕事をきっちりこなしていた。


 セカンドの守備にも定評がありヒットせいのあたりを何回かアウトにしている。きっと頭で考えるより先に体が動くのだろうボールを捕球するまでの最初の一歩目が異様に早い。


「久留美、あんこ二人が打ってバッティング練習は終わりだから早くゲージに入るにゃー」


 詩音の声がホームから聞こえて二人は急いで準備した。意気揚々にバットを振るあんこに対して私は対照的だ。久留美は野球を始めてまだヒットを打ったことがない。だからバッティングが大嫌いだった。芯を外せば手は痺れるし、ましてデットボールがある。久留実はピッチャーをやっているから分かるが手元がくるう時はあるバッターにぶつけてしまったときは素直に謝るが、ぶつけられたのが自分だったらと思うといつもぞっとする。だからといって打席に入ったらもちろんヒットは狙うに決まっているがそう簡単に打てるものではない。


 隣のゲージで快音を響かせるあんこに対して自分は空振りばかりでバットにまともにあたらない。


「素振りの練習なら他所でやりなさい。打てないならバントやエンドランのサインを想定しなさいよ、時間が勿体ないわよ」


 マシンにボールを入れてくれているりかこに怒られながらもランナーとアウトカウントを想定したバッティングを行った。あんこも十球ほど気持ちよく打った後しっかりランナーを想定したバッティングを始めた。


 ランニングメニューをこなしている時に気がついたが上級生たちは凡打の質が高い。例えばエンドランでゴロを転がすにしても私やあんこはボールにあてにいく感覚があり力ない打球が多いが上級生たちはしっかりと振り切ったうえでゴロを打っているから打球が強い。コースがよければヒットになる打球を打っている。

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