第23話香織の秘密って、やば
しんこちゃんから、香織のバックグラウンドの話を聞いて、わたしと真藤とで開発していたダブルシーケンスシステムが、軍事利用されそうになっているんだ、とひらめいた。
もちろんそれはわたしの勝手な想像であって、何かしらの裏が取れている話ではない。それでもそう考えると、色々な出来事が、妙に腑に落ちる。
わたしの想像どおりのことからの出来事であるならば、公安に連れていかれたという真藤も、身の危険があったり、拘束されたりする類の扱いを受けているわけではないだろう。
「香織。旅行に行っているって聞いたんだけど、どこだかわかる?」
また他人のことを詮索をする質問をしている。わたしらしくないとは思うけれど、今はどうしても、そんな風に心が動く。
「ああ。たぶんグワムじゃないかな。って、香織が海外で何か問題でも起こすかのような聞き方ですね。何かあるんですか?」
しんこちゃんは、ひょうひょうとした感じで、核心をずばりと聞いてくる。
「うーーん。全部は話せないんだけど、ちょっとだけ話す。聞いてくれる? そして絶対に秘密にしてくれる?」
しんこちゃんが真剣な目で、大きくうなずいてくれたので、わたしは、わたしの周りで起こっている出来事を、隠すべきところは隠したまま、かいつまんで説明した。
「なるほど。確かに香織の動きにも怪しいところがありますね。でも、たぶんですけど、香織はそんな国際的な諜報部員が務まるような人ではないし、その性格から言っても、そんなことに加担はしないと思います。でも実際に、そこまでクビを突っ込んでいるのだとすれば、それはずばり、恋のためですね」
「恋、のため?」
「はい。香織はマジで真藤さんのことが好きなんです。真剣にお付き合いしたいと思ってますし、できれば結婚したいとまで思ってます。開出リーダーに敵対的感情を持っているのだとしたら、梅ちゃんさんと真藤さんを結びつけているのが、実は、開出さんなんだと思っているからでしょうね」
「むすびつけるって、キューピッドじゃあるまいし。それにわたしたちは付き合っているわけでもないし」
「はい。そこは香織も重々わかってますね。でも、やっぱり嫉妬しちゃうんですよ。だって仕事の上とはいえ、二人が親密に話しているのを見れば、しかたないです」
「それだけすらすら出てくるということは、そのこと、香織が、しんこちゃんに相談しているってことよね」
「そうですね。その話もよくしてますね」
「その、って、じゃぁ、その、じゃない話もあるの?」
「その、じゃない方の話も、梅ちゃんさんには言っても香織は許してくれるって確信してますが、心配なのは、そっちじゃなくて、その話、聞いてしまったら、梅ちゃんさんも覚悟が必要になる話なんですが、それでも聞きますか?」
おいおいおい。なんでここでもまたサスペンスモードになるんだ? そりゃ大変なことが裏では起きているとは思っているけれど、そんなあんなが、みんな、わたしごときに関係してくるなんて、そんなことあり得ないでしょ。どうする? 聞くの? 聞かないの?
「教えて」
「香織。高田沢専務の秘書だったんです」
「へっ」
まったく思ってもいなかった方向から、ボールが飛んできて、間抜けな声を上げるしかなかった。
「香織がその職に就いてすぐに、高田沢専務が香織のことが気に入ってしまって」
うん? だからどうした。上司に気に入られたんだったら、仕事が楽になって大いに結構な話ではないか。
そんな思いが、梅の表情に表れていたのだろう、しんこちゃんは、
「高田沢専務は女性関係の噂が絶えない人なもので」
と付け足した。
ああ、そこまで言ってもらえれば、さすがのわたしでもわかる。だけどそれはれっきとしたセクハラでしょ。パワハラも入っているのかな。いずれにしても、表に出せば、困るのは高田沢専務の方だ。
「わたしも初期の段階で相談を受けたんですが、さてさてどうしたものか、と一緒になって悩むしかなくて。香織、このスカイフラワーに入社するのが夢だったんです。ようやくその夢が叶ったのに、そんなに短期間で失いたくはない、と。その気持ちもわかったし」
いやいやいや、そんなもんはガツンと言ってやらなきゃダメでしょ。そんな醜い生物が役員としてのさばってちゃ、この会社のためにも良くないじゃない。
「そこに現れたのが、真藤さんなんです」
「へっ、真藤さん?」
梅はふたたび間抜けな声を発せずにはいられなかった。
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