第14話なぐさめてもらっちゃった
香織は何の仕事をしてたっけ?
そこに思考が向かって、梅は愕然とした。
わからない。すぐにイメージできるのは、お茶くみをしている姿だ。だが、スカイフラワーでは、お茶くみという仕事は存在しない。逆に、特定の誰かにお茶くみをさせるというのは、問題ともなる。香織がお茶くみをいつもしているのは、単に個人的な行動であるという理解である。今まで不思議とも、問題とも思ってなかったけれど、これってかなり不思議だし、問題よね。課員それぞれの仕事について思い出してみた。詳細にはわからないまでも、香織以外の課員が、どのような仕事をしているかは、おおよそわかっていた。香織って、本当にどんな仕事をしてたんだったけ?
これも明日、必ず、確かめなくちゃいけない。
なんとなく焦燥感があって落ち着かない。このままでは眠れそうにない。
少し考えて、サッカー部のラインを開いた。監督と、中心選手とのグループラインだ。ちょっとした通達や確認のために使っている。いつもよりは遅い時間だけれど、使用して問題となる時刻でもない。梅は思い切って、そこに文字を打った。
真っ先に反応があったのは、監督の渡良だった。
こんな時間にどうした? とあって、すぐに、もうそのサッカー部という言葉は止めろ、とあった。
サッカー部じゃないんですか?
上のカテゴリーを目指すということは、プロのサッカーチームとなることでもある。これからは会社のサッカー部ではなくて、スカイジェット蒲浜というプロチームとしての名を中心に考えろ。
そうか。そうですよね。
おまえさんも、そろそろどっちにするのか、はっきりさせなきゃいけないところにきているな。
どっちにと言うと?
おいおい。プロチームをなめてるのか。片手間でやれるような仕事はもうないぞ。会社の仕事なのか、サッカーの仕事なのか、はっきりさせなきゃいけない。これからは選手だけではなくて、そういう組織の構築も重要なものになってくる。
監督から、組織の構築なんて言葉が飛び出して、ちょっとびっくりした。だけど、そうよね。スカイジェットはプロ球団になるのよね。確かにどっちつかずでこなせるような仕事はなくなる。
梅としては、どちらの仕事になるとしても、それは会社が決めることだと、漠然と思っていた。でも、それだけじゃダメなんだと、初めて自覚した。本気でどちらに取り組むのか、自分自身も覚悟する必要がある。
すでにプロ球団としての準備は進められていた。スポンサー集めや、球団の総務的な部署、そのようなことは当然組織として作られ、活動が始められている。
そこに梅は組み込まれていなかったので、自分は今までのまま、という勝手な思い込みがあった。
だけど、それは間違いだ。どうしてそんなことにも気づかなかったのかしら。本当にぼうっとしていただけじゃない。アホなの、わたし。甘いよね。ほんとに。だから会社の仕事でも、とんでもないことが起こってるんだ。わたしの責任? うん。そういう部分は確かにある。
梅ちゃん、どうしたの? 酔ってるの?
ラインに現れたのはキャプテンの康太さんだった。
あっ、そういうわけじゃないです。
あれっ、変だな。いつもの梅ちゃんらしくないな。あっ、会社の仕事で何か失敗でもした?
うっ。さすがに康太さんだ。チームの選手全員にしっかり目配り気配りしている康太さんならば、わたしの変化を見破るなんて、朝飯前なのかもしれない。
ちょっとはありましたけど。
うん。いいね。そういうことさらりと告白できるところはいいよ。なんでもかんでも溜めちゃう奴は、突然折れたりするからね。で、それが何なのかは、言えない類の問題なんだよね?
まさにそうですけど、あまりにわかり過ぎじゃない。そんなに単純なのかしら、わたし。ていうか、なんて答えたらいいのよ。実はご相談が、なんて言えないし、てか、なんでわたしはこのライン開いちゃったんだろう。やっぱり、こんな風な言葉を期待してたんだろう。やば過ぎ、本当にダメだ、わたし。
梅よぉ、明日も必ずグラウンドに来いよ。いいもの見せてやるからよ。
監督の文字に、うるってきそう。やっぱ、監督もわかってるのかな。
あっ、差し入れは大歓迎だ。
って、次の言葉にむかっとした。これはつまり、差し入れをもって来いという命令でもある。これまでのつきあいで、そういうところはわかっている。って、やっぱりわたしを気遣ってくれてるのかな。
わかりました。
わたしの打ち込んだ文字に、ほぼ同時にふたりから、また明日、という文字が返ってきた。
ラインを閉じる。
たったこれだけのやりとりで、気分はあきらかに変わっている。そうよね、すべて、明日だ。
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